米ファネンスティール海軍次官補による2010年7月27日の下院軍事委員会公聴会における発言に関す各局報道内容の裏取り作業結果

■概要
ファネンスティール次官補の公聴会での証言内容について、国内マスコミは次のように、一様に「延期が避けられないとの見通しを明らかにした」、というように表現した。

○日経「2014年の移転完了は事実上困難との見通しを示した。」
(Web魚拓)
http://megalodon.jp/2010-0729-2034-43/www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C9381959FE0E5E2E1888DE0E5E2E5E0E2E3E29F9FEAE2E2E2

○琉球「グアム移転先送りの考えを示したが、新たな期限は示していなかった。」
http://megalodon.jp/2010-0729-2043-52/ryukyushimpo.jp/news/storyid-165553-storytopic-53.html

○産経「グアムのインフラ(社会基盤)整備の遅れを理由に先送りする考えを示した。」
(Web魚拓)http://megalodon.jp/2010-0729-2032-47/sankei.jp.msn.com/world/america/100728/amr1007280110000-n1.htm

○IB Times「2014年までの移転について、延期が避けられないとの見通しを明らかにした。」
(Web魚拓)http://megalodon.jp/2010-0729-2018-38/jp.ibtimes.com/article/biznews/100728/58178.html

実際にそうした発言が行われたのかどうか、当日の公聴会の模様を記録した米下院軍事院会公式サイトの動画(約1時間40分)を通しで全て視聴してみた。

○公式サイト掲載の動画
http://armedservices.edgeboss.net/wmedia/armedservices/fc072710.wvx

結果、そのような発言は行われておらず、むしろ次官補は「2010年会計年度内に建設を開始できるであろう」という見通しを表明していたことが判明した。

以下に、次官補が実際に委員会に提出し、公式サイトに掲載された書面と、実際の証言に使われた(読まれた)書面の内容の原文、そしてその訳文を併記する。

■ファネスティール海軍次官補の証言(当該箇所)

(A)提出された書面
http://armedservices.house.gov/pdfs/FC072710/Pfannenstiel_Testimony072710.pdf

Recognizing existing infrastructure limitations, we fully understand that impacts to the island’s infrastructure must be considered before they occur. Using what we call “adaptive program management”, the pace and sequencing of construction will be adjusted to stay within the limitations of Guam’s utilities, port, roadways, and other systems.

----- ここまでの仮訳 -----

既存の社会基盤(インフラ)上の制約に鑑み、島のインフラへの影響は、それが実際に起こる前に対策を講じる必要があることは十分に理解している。我が社は「適応型プログラム管理」と呼ばれる手法を活用し、建設の速度と順序づけは、グアムの公共設備、港、道路等のインフラ上の制約の範囲内でこれを調整する。

(中略)

We continue on our path to achieving a Record of Decision in early September 2010, which will allow for construction to begin in FY2010. Our acquisition strategy will allow us to immediately award contracts for FY2010 and, once authorized and appropriated, FY2011 projects included in the President’s Budget request.

----- ここまでの仮訳 -----

2010年9月始めには、ROD(決定記録)に到達するよう鋭意努力している。これにより、2010年会計年度には建設を開始できるようになる。迅速な調達戦略により、2010年度中に委託契約を完了し、その承認と予算が確保されれば、2011年度の大統領予算教書には含まれる見込みである。


(B)実際に行われた証言(※書き取り)

We are committed to stay within the capacity constraints of Guam's infrastructure. And we will coordinate closely with Guam's leaders, federal and Guam agencies, and other parties, to do so. As a result of this successful inter-agency coordination, we're confident we can sign a Record of Decision and begin construction projects within this fiscal year.

----- ここまでの仮訳 -----

グアムでの建設は、島のインフラ上の制約の範囲内で行うよう努める。その為に、グアムの指導者や連邦及びグアムの当局、そしてその他の関係者と緊密に連携する。このような各機関の横断的な連携を着実に実践することにより、本会計年度内にRODを発出し建設を開始できるであろうと確信する。

■まとめ

上記A・Bの証言内容を確認する限り、そして証言内容全般にわたって、次官補は一度も建設開始の延期を仄めかしておらず、またインフラ上の制約についても、それが延期の理由になるとはしていない。むしろ、インフラ上の制約はあるが、その範囲内で作業を進め、遅くとも2010年度中に建設を開始できると「確信している」と証言しているのである。

一方、ファネンスティール次官補の証言とは“異なり”、実際に発出されたFEIS(環境影響最終評価)のエグゼクティブ・サマリーには、次のように書かれており、海兵隊の移転が2017年にずれ込む“シナリオ”が想定されている。つまり、FEISは、報道されるように国防総省(海軍省含む)は、公式に2017年にずれ込むことを認めた内容とはなっていない。

Force flow reductions, in one notional scenario associated with delaying the complete arrival of the Marine Corps military population until 2017, would lower the rate of arrival per year of the entire operations-related force flow reduction and decrease the current total peak population from 79,187 to 57,593 in 2014.

----- ここまでの仮訳 -----

2017年まで全海兵隊関係者の到着を遅らせることを想定した概念的なシナリオでは、作戦運用関連部隊全体の年間の流入率を削減することで全体の流入人口を減らすことができ、ピーク人口も2014年度想定の79,187人から、57,593人に減ることが想定されている。

○FEIS(環境影響最終評価書)のエクゼクティブサマリーより
http://www.guambuildupeis.us/documents/final/summary/Executive_Summary.pdf

■個人コメント

このような書面で確認できる明白な事実があるにもかかわらず、日本のマスコミ報道がなぜ一様に、建設「延期の見通しを明らかにした」と報じたのか、その理由はわからない。

合理的に考えれば、建設が延期になれば、その分、日本が交渉上優位になり、普天間交渉をより有利に運べることになるからだ。なぜなら、ロードマップ合意以降、日米で連綿と認識を共有した筈の2014年の移転実現が、実際に現在報じられているように2017年にずれ込むことになれば、国際公約を不履行しているのは米側ということになり、その事実があれば交渉を有利に運ぶ材料となり現政権の利点になり得るからだ。

マスコミもやっと、日本の国益を考えるようになったのだろうか。だとしたら、私のこの検証行為こそが国益に反してしまうのかもしれない。だが、ここまで事実と異なる報道を放置してはおけない。

米側の2017年海兵隊移動の想定が単なる「想定」であり、確定事実でも公式な表明でもないかぎり、その事実を明かさずにあたかも公式な表明であるかのような報道を行うのはいかがなものかと思う。

以上

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■(参考)関連する国内の報道

○FNN「移転時期を2014年から3年後の2017年まで延期する提言をしており、今後の普天間基地移設計画にも影響するとみられる。」
(Web魚拓)http://megalodon.jp/2010-0729-2236-39/www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00181619.html

○時事「国防総省のグアム移転に関する環境影響評価の最終報告書は、グアムでのインフラ整備不足から、日米両政府が合意した2014年の移転完了時期を3年遅らせ17年に延期することを提案している。」
(Web魚拓化不可)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2010072900611

○毎日「これらの懸念から、人口調整が必要だとし、日米合意の14年の完了を断念。「海兵隊の移転完了を17年まで遅らせることによって、14年のピーク人口を5万7953人にまで減らすことができる」との試算を出した」(琉球新報経由)
(Web魚拓)
http://megalodon.jp/2010-0729-2241-25/mainichi.jp/area/okinawa/news/20100729rky00m030003000c.html

○NHK「アメリカ軍がまとめたグアムの環境影響評価の最終報告書の中で、移転完了の時期が2017年まで遅れる可能性が指摘されている」
(Web魚拓)
http://megalodon.jp/2010-0729-2243-08/www3.nhk.or.jp/news/html/20100729/t10013034161000.html

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