#saiuncafess工部+楊修2


『午睡の使い方』2



 視線をカウンターにやれば、玉が食事を終えた客に珈琲をいれている。ゆっくりと抽出される玉独自のブレンドも、この店の人気の一つだ。
 鮮やかなブルーの小花が散るマイセンのカップに注いだ珈琲を運ぶと、次には銀のバケツに冷やしたワインとアペリティフを持ってきた。アペリティフはカリっと焼いた薄切りのバゲットにフォアグラのパテが乗せてある。
「シャルル・バイイです」
 ラベルを見て、楊修が頷くと、玉は鮮やかな手つきでコルクを空け、グラスに半分ほど注いだ。このテイスティングで、一度ダメ出しをしてみたい衝動にかられるが、玉の選択はいつも確かで文句のつけようがない。
 一口含むと、思った通りに爽やかな香りとのど越しで、秋晴れの午後に相応しい。もちろん、料理にも合うのだろう。
「ところで」
 ゆっくりと注がれるグラスに無数の気泡が昇るのを見ながら、楊修がまた皮肉げに笑った。
「昼の客は私が最後だろう? 飛翔さんに挨拶したいんだが」
 思った通り、玉はあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
「理由は?」
「美味い飯の礼」
「必要ありません」
「素っ気ないな。別に君から取ろうとか思っていないというのに」
「当然です」
 ちょうど窓から差し込む光で影になった玉の端正な顔に、微かな艶のある笑みが広がった。
「私は私のものを他人に奪われるようなヌケサクではありませんからね」
「ならいいだろう?」
「駄目です」
 にべもなく言い捨てて、玉はカウンターの後ろに歩み去った。
 二人がいつからそんな間柄なのかまでは、楊修は知らない。飯が美味くて、酒や珈琲が美味ければ、なんの問題もないのだから。ただ、普段はどんな客が来ても怜悧な表情を崩さない玉が、こと飛翔が絡むととたんにムキになるのが可笑しかった。
 やがて運ばれてきたパスタは、数種類のキノコの豊かな香りと、地鶏の旨みが、控え目なクリームに溶け込んだ一品だった。
楊修は、不機嫌そうな玉の顔を楽しみながら、遅いランチを満喫した。


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