#saiuncafess工部+楊修3


『午睡の使い方』3



「よお、陽玉」
 また飛翔に会わせろなどと言われないうちに、冷やかな笑顔と有無を言わせぬ態度で楊修を追い出した玉は、店に鍵をかけてから厨房をのぞいた。
 飛翔は、何やらブツブツ言いながら鍋をかき混ぜ、味見をしてはノートに書き込み、その合間に調理台に置かれたポルト酒をぐいっと飲んでいる。
「まったくアンタという人は。そんな飲み方をしないでください。ちゃんとグラスに注いだらいいでしょう」
「あ? 俺がどんな飲み方したっておまえにゃ関係ねえだろ」
「酒に対して失礼です。そんなんじゃ香りも楽しめないでしょう」
「香りはなあ。口に入れてから鼻に抜ける息で楽しめんだよ。そんなことどうでもいいがよ」
 また一口呷ってから、飛翔は手を拭いて玉の方に向き直る。
「楊修が来てたろ」
「なんで……のぞいてたんですか?」
「ったりまえだろ。客がどんな顔して食ってるか、気にならねえ奴はいねえ。しかもアイツは舌が肥えてやがるからな」
「で? だから何です?」
「ありゃ、お前のダチだろ。なんで来る度に親の敵みてぇな顔して睨んでんだよ」
 それは楊修が、飛翔に会わせろと、思わせぶりな態度で言ってくるのが腹立たしいからだ。別に会わせたからってどうということもないのだが、あの腹に一物な胡散臭い笑顔を見ていると、とりあえず飛翔を表に出したくはない。
「別に。それこそアンタには関係ないじゃないですか」
「お前みたいに性格悪い奴のダチをやってくれる奴なんざ、滅多にいねぇだろ。大事にしろよ」
 話は済んだと言わんばかりに、飛翔はまたノートのメモと鍋の中身に意識を戻した。
 返事をするのも業腹で、黙ってグラスを磨きつつ、その後ろ姿につい目がいく。がっしりとした肩、意外に引き締まった腰、腕まくりされた太い腕。
 火を使う厨房は暑い。だが、じっと見つめているうちに、玉の身体も火がついたように熱くなってくる。
 玉は磨いていたグラスをそっと置くと、唇に艶やかな笑みを刷いて飛翔の背に手を伸ばした。
 夜。『Cafe KOHBU』が『Club KOHBU』に装いを変えるまで、まだ何時間もある。
それまでの時間、邪魔する者は誰もいない。


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