#saiuncafess 紅家兄弟+絳攸


『絆のカフェ』

――行けば分かる。
それしか聞かされていなかった。とにかく行ってこいと絶対零度の瞳で命じられて、絳攸には否を言うことができなかった。
どこまでも突き抜けるような青空のもと、はぁぁっとつい溜め息が出る。
「地図の通りに来たはずなんだっ、くそっ」
溜め息が出るのは、道に迷ったからだ。黎深に言われた通りに来たのに、辺りは似たような住宅が並ぶばかりで、目的地に行き当たらない。
幾つか角を曲がり、ふと小さな看板に目が止まった。
『cafe Kouke』
(Koukeって……紅家かっ?)
赤い屋根、白い壁。窓には緑のゼラニウムの葉が揺れている。そして何よりもドアの上に紅家の紋である桐竹鳳麟が彫りこまれていた。黎深の指示した場所に間違いない。
絳攸は躊躇うことなく、ドアを引いた。


「遅かったな、絳攸」
チリンという可愛らしい音と共に自分を迎えた人物に、絳攸は目を瞠った。
「玖琅さまっ」
「早速で悪いが、奥で着替えてくれ。もうすぐランチの客が来る」
「――って? どういうことです? ここは一体……?」
「見ての通りのカフェだ。説明は後で。とにかく着替えろ。ホールはお前に任せることになるからな」
玖琅は言い募ろうとする絳攸を視線で制し、カウンターの奥でカチャカチャとカップを揃えだす。
紅家グループはいろんな事業に手を出しているが、ここもその一つだろうか。にしても、何故、事業の実質的統括責任者たる玖琅が自ら店に立っているのだろう。
首を傾げながら、絳攸は大人しく奥の控え室に入った。

.

Reply · Report Post