#saiuncafess 紅家兄弟+絳攸3


『絆のカフェ』3


「しょ、邵可さまっ?」
ランチの客があらかた去った頃、入って来た客に絳攸はまた目を見張る。
「やあ、がんばってるね」
穏やかな笑顔の邵可は、細い目を更に細めた。
「驚いたかい?」
レモン入りの水とメニューを持ってきた絳攸に邵可が問いかける。
「はい」
「玖琅のことだから、何の説明もなかったんじゃないかな。ここは何だと思ったかな?」
「……アンテナショップ、でしょうか?」
「うん、そう。まあ黎深の発案だけどね。言い出しただけであの子は何もしないから、結局玖琅が身内だけでやっている」
「身内?」
問い返すと、後ろから肩を引かれ、玖琅が渋い顔で邵可を見下ろす。
「何もしないのはあなたでしょう、邵兄上。来てものんびり珈琲飲んで帰るだけじゃないですか」
「ははは、そうだね」
暢気そうに笑う邵可を、ますます睨みながら、玖琅は素っ気なく言う。
「邵兄上はいつでもマンデリンしか注文しない。それと土産に栗のタルトを包んで置いてくれ」
土産は秀麗にだろうと承知した絳攸がケーキのショーケースの後ろに消えるのを見送って、玖琅は邵可に向き合った。
「せめてこの店を邵兄上が切り盛りして下さると助かるんですが。まあ無理でしょうな」
「うん、ダメだよ。だって私は君のいれてくれるマンデリンが大好きなんだからね」
――この兄は、なんでこうさらっと人の胸を抉るようなことを言うのだろう。
玖琅は小さく溜め息をついて、邵可の為の珈琲をいれにいく。


爽やかで深い薫りの珈琲を前に、邵可は笑みを絶やさない。
本当は滅多に紅家に立ち入らない自分の為に、黎深がここを作ったのだと。ここならば、何の気兼ねもなく兄弟が会えるのだと。
玖琅も自分も承知している。紅家のアンテナショップなのに身内しか働かせないのはそのせいだ。邵可は玖琅夫婦が店に立つときだけ、ここを訪れる。
間もなく黎深もやってくるだろう。今まで内緒にしていた絳攸をこの店に来させたのだから、自分も今度は秀麗を連れてくるべきだろうか。

無愛想ながらも小気味良く働く絳攸を見ながら、邵可はまた笑みを深くした。

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