#saiuncafess 悪夢組1


『行く先は天国か地獄か』1


ギィィィと悲鳴のような音をたててドアが開く。
中に入るまでもない。そこは異質な世界だった。


「……本当に入るのか?」
飛翔が思わず声をひそめる。無理もない。薄暗い店内には霞むように香が焚かれ、やけにポップに聴こえるBGMは耳を澄ませば読経だった。
普通の人間ならば、垣間見ただけで悪い夢でもみたかと首を振って逃げ出すだろう。だが。
「いや。ここが指定された場所に間違いないのだ。逃げる訳にはいかん」
鳳珠は普段から白い頬から更に血の気をひかせたが、ごくっと唾を飲み込んで一歩前に出る。
「あらぁ、いらっしゃい」
逃げ腰な二人の退路を塞ぐように、妙に陽気な甲高い声が響いて、チャイナドレスの女が立ってきた。
「お、おう」
飛翔もひきつりながら当たり前のように手をあげてみたが、それを下ろす前にぎゅっと眉根を寄せた。
「アンタ、男、だよな?」
「うふ。わかる? さすがにいい男ねぇ。子美っていうの。よろしくね」
誘われるままに、やけにふかふかしたソファに座らされ、ガチガチの鳳珠の隣に子美が寄り添う。
「なに飲む?」
艶やかな濃い化粧の下で笑顔を振り撒く子美に、鳳珠は首を振る。
「いや、俺たちはここで人と会う約束がある」
「だからって、こういう店に来てお水しか飲まないなんておかしいでしょ。怪しまれるよ」
不意に低くなった子美の声に、鳳珠と飛翔は目を合わせた。やはり聞いてきた通り、普通の店ではないし、働いているのも普通の人間ではない。
「では杏露酒を」
鳳珠が渋々注文したのが、甘い酒であることに子美はクスッと笑って、切れ長の目を飛翔に向ける。
「俺はバーボン」
「了解。待ってね」

.

Reply · Report Post