#saiuncafess 悪夢組2


『行く先は天国か地獄か』2



腰を振りながらカウンターへと立つ華奢な背中から目を離さず、飛翔が囁いた。
「ホントに渡し屋がくんのかよ?」
「知らん。だが、今の俺たちは贅沢言って浪費できる時間なんかないんだぞ」
「そりゃ、そうだ。腹をくくるしかねえな」
コトンとグラスがテーブルに置かれ、密やかに話す二人の間を割るように、戻ってきた子美が座る。
「どうぞ」
促されてグラスに手を伸ばした鳳珠は、掴み寸前で動きを止めた。
「おい、子美」
かけた声が心なしか震えている。
「このテーブル……まさか」
「気づいた? そうねぇ、アンタが見た通り。棺桶よ」
ぐぇっと変な声をあげた飛翔が噎せる。照明のわずかな光に鈍く反射しているテーブルは、よくよく目を凝らせば確かに棺桶の形をしていて、子美の置いたグラスの酒が微かに揺れる影を作っている。
「マスターの趣味でね」
「……………………悪趣味だな」
「そう? 誰だって悪趣味の一つ二つあるんじゃない? じゃなきゃ、世の中面白くない」
ふふふと笑う子美の顔を見ていて、鳳珠はふと意識が遠くなるような気がした。
相変わらず香が鼻腔を刺激する。大音響の般若心経が思考を鈍らせる。
自分も飛翔も、この二日、ほとんど眠ってはいないし、追われる身とあれば常に神経を尖らせていた。
それが、この店のあまりに異質な空間で、ドロドロに溶けていく。
(これでは……いかん)
そっと手のひらに爪を食い込ませ、鳳珠は眉を寄せた。

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