#saiuncafess 悪夢組3


『行く先は天国か地獄か』3


飛翔の低音と子美の高い声が入り交じる中、鳳珠は目の前の杏露酒をぐいっと飲み干す。甘い液体が喉を焼きながら疲れた身体に吸い込まれていく。
「黄鳳珠監察局副長」
いきなり間近で自分の名を呼ばれ、はっと顔を上げる。目の前に、先ほどまでカウンターの中にいたはずの痩せぎすな男が、奇妙な笑みを浮かべて立っていた。
「名乗りはしなかったはずだが?」
現実離れをした空間に喰われそうな意思を、たぐりよせるように鳳珠は睨み付ける。
飛翔がソファの背から身を起こす気配を感じながらも、視線は男から離さない。
「知らない訳ないだろう。局長以下監察局ぐるみの不正を、新任の副長が三日で告発したかと思えば、局内で銃撃戦の上、蔡局長と特務警官三人を撃って、告発記事を書いたデイリー新聞の記者の菅飛翔と共に遁走。街は大騒ぎだ」
「……通報すると?」
「さて」
にいと唇を引き上げて笑う男が、敵か味方か分からない。
「おい、アンタ。名前は?」
飛翔が落ち着いた声で尋ねる。
「聞いてどうするね?」
「どーもしやぁしねえが。俺たちだけ有名人ってのも癪にさわる。名前がわからんと、いつまでもアンタ呼ばわりだぜ」
「なるほど。ボクは来俊臣という」
「で? 来俊臣。アンタか渡し屋なのか?」
「いや。ボクはただこの店の主というだけでね。いわば場所を提供するに過ぎない。誰の味方でもないし、敵でもない。公式にはね」
「情報屋って訳かよ」
自分よりは多少世の中の裏を知っているらしい飛翔に会話を任せて、鳳珠はただ来という男を見つめた。喉が焼けつくように渇いていた。だが、それを口にする場面でもない。

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