#saiuncafess 悪夢組5


『行く先は天国か地獄か』5


「だから来ただろう」
「はぁっ?」
「紅家の裏の事業の一つだ」
「事業?」
へぇという顔で鼻先をかいた飛翔が探るように黎深の尊大な顔を見つめた。
「黎深。俺たちは金がない。口座は封鎖されたし、あるのはこの身体だけなんだが」
「紅家は人身売買までは手を染めていない」
「だが」
「蔡はまあ個人的に生かしておくつもりなどなかったが、君があっさり殺してくれた。だから代金はそれで構わない」
「なに?」
「三日後に澳門行きの船を出す。それまでに渡航の準備はすべてしておく」
「澳門?」
「そうだ。それからトルコ行きに乗り換えたまえ。君らはしばらく東にはいない方がいい」
「ありがたいが、黎深」
「当座の金も持たせてやる。なに、君らの銀行口座の金は、そのうち紅家で差し押さえるから心配するな」
絶句した鳳珠に替わり、飛翔が口を開いた。
「解せねえなあ。蔡に恨みがあったにしろ破格な申し出だ。紅黎深が義憤にかられるような性格だとは思えねえしな。どんな裏がある?」
腕組みして険しい目をした飛翔に、黎深は凍るような笑みを返した。
「鳳麟が君らに手を貸すように言ってきたのでね」
「鳳麟? 誰だ?」
「今はトルコにいる。名を鄭悠舜。行って会えば分かる」
鄭悠舜。口の中でその名を繰り返す。
根本から腐り始めたこの国を出て、その先に何があるのか。自分に何が出来るか。全く見えてこない。
ただ鳳麟というコードネームを持つその男に会えば、何かが変わるのかもしれない。
鳳珠は子美が汲んだ水を飲み干して頷いた。

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