続) しかしながらそういったリーダーシップというのはなぜ幻想かと言いますと、そのようなリーダーシップというのは今現在存在し得ないという事実があるからです。ちょっと一歩引いて、では何がリーダーシップなのかという事を考えてみたいと思います。リーダーシップがあった時に我々が自発的に受け入れる場合には、リーダーシップというのは常に前向きでポジティブでニュアンスとしても良い事である、という意味においてリーダーシップというのを我々は受け入れるわけであります。自発的に受け入れる場合に。悪しきリーダーシップというのがあった時には、そういう悪しきリーダーシップに見舞われるのは不運な人たちであって、そういうリーダーシップがあった時には色々な不運なことがその人たちの身には起こるというわけでありますが、良きリーダーシップを自発的に受け入れる場合には、常にポジティブな意味合いがあります。しかしながら今、世界の中でアメリカが果たしているリーダーシップというのは全くポジティブなモノではありません。


 私はこういった事を考える時に二つの事から今申し上げた事を申し上げるわけです。ひとつは『アメリカが戦争をする』という側面に関してです。必要ではない戦争をする、あるいはアグレッション、こちらから侵攻する形での戦争をする、何の根拠もないのに戦争をする。誰かを守るためというよりも、何の理由があるか知りませんけども、とにかく戦争するという側面。それからふたつ目は金融秩序ということに関するアメリカのリーダーシップの問題であります。2008年の秋に信用危機が発生いたしました。この信用危機というのは惹起されたかと言いますと、それはアメリカで成長した金融産業というシステムゆえに発生したわけであります。しかもそれはどんどん悪くなりましてその金融システムというものが国内、あるいは世界の経済にどんな事をもたらすことが出来るか、ということについてはどんどん悪化の一途を辿ったのです。


 申し上げますけども、私がこう言っているこういう意見というのは沢山の人が賛成してくれる訳であります。多くの政府も私に賛成してくれますし、それからいわゆる『Free world』自由世界と言われるような所の政治的な議論に参加をするような人たちもたくさん賛成をしてくれます。特にアメリカのリベラルと呼ばれるような人たちはオバマ政権の前のブッシュ政権のちょうど終末の時期におきまして、その意見を持ったのであります。まさにアメリカはメタモルフォーシス(Metamorphoses)を起こしてしまった、変身してしまった。しかも間違った方向に変わってしまって、それは万人にとって悪い事であったという認識を持ったわけです。その時にその人たちが希望したのは、ブッシュ大統領の後継者たるオバマ大統領ならばこの状況を変えてくれるだろう、そしてブッシュ政権が間違った方向に行く前にアメリカが存在したような正しい路線に戻るであろうという事をみな期待したのです。


 私の本は出たばかりですが、どうしてこういうことになったのか?ということ。そして何故そのようなみんなが期待した事が起こらなかったのか?ということについて理解をしようと詳細にわたって、どういう理由があって変化が起こらなかったのかという事を解き起こそうとしております。ひとつ大切なポイントとして指摘しますが、このような劇的な動きをオバマ大統領が示すためには非常に時間が短かったという点を指摘しなければいけません。もうある意味でショックを受けたような状況にあったためにアメリカの国民、あるいはアメリカの政治階級に属する人たちも本来ならばそれを受け入れる事が出来たような劇的な動きではありましたけれども、非常に短い時間の間にそれを行わなければなりませんでした。


 思い出していただきたいのですが、2008年の最後の数カ月におきましては殆どの米国主要新聞の論説というのは、資本主義というのはこれは終わったのではないか、アメリカで資本主義を継続することが出来るのだろうか、みたいな論陣をよく張っておりました。ですからアメリカを大きな危機感が覆っていたわけです。ですからその危機感を国民が持っているというところから非常に大きなドラマチックな動きがもし導入されたならば、それを受け入れるということはアメリカの国民が出来た筈ですけども、しかしながらそういうような大きな変化を起こすという事を大統領は選択しませんでした。ある意味においてチャンスの窓というのが閉ざされてしまったのであります。


 ですから09年が経過するにつれて変わらないんだということが徐々に明らかになってきたわけです。みんなが期待した変化というのが起こらないんだということも09年には明確になってきたわけです。アメリカは思ったような変化をしなかった。そしてブッシュ政権やそれぞれの色々悪影響を及ぼした状況を変える事をアメリカはしないんだという事が明らかになってきたわけです。そこで09年におきまして、世界は非常に重要な教訓と言いますか、メッセージを学んだと思うのです。すなわち09年以前には我々は知らなかったような事を学んだのです。それは何かと言いますと、アメリカというのはもちろんそれは力なんだけれども、アメリカはこうなるだろうというふうに皆が期待したような力ではない力の在り方として存続し続けているという事、それを学んだのであります。それは世界の秩序を形成するという力ではなく、アメリカはかえってカオス、混乱を作るための力として存続を続けるのだという事、それを世界は学んだのです。(続

Reply · Report Post