続) 私が追跡することが出来た限りにおきましては、鳩山総理は3回このような日米会談を求めた形跡があります。しかしながら、それに対してそれは出来ないという答えというのは外交経路を通してすら、そのような返事がアメリカから来たわけではなく、米国政府の広報官、スポークスマンの口から言われただけであります。すなわち米国政府のスポークスマンは日本の総理が国内政治問題を解決したいというのであったならば、それを解決するために米国の大統領を利用するという事があってはならない、そういう大変侮辱的な言質をアメリカのスポークスマンは使ったのであります。


 鳩山総理は別の機会に、これはコペンハーゲンで環境関係の会議があった時のそのプログラムの一環としての晩餐会の席でヒラリー・クリントン国務長官の隣りに座って、そこで別の話をするチャンスを持ったわけであります。勿論その晩餐会が終わった後で鳩山総理が出てきますと日本のジャーナリストはみな彼を取り囲んで、そして『沖縄の基地問題についてヒラリー・クリントン国務長官と話をしましたか?』と聞きました。そして鳩山総理は『もちろん』と答えました。そしてジャーナリストは『会談の中身は良い会談でしたか?』と聞いたら、これは日本の政治家のいつもの答え方だったと思いますけれども、『前向きな内容』とか『前向きな話をすることができました』そのようなお答えぶりでした。


 クリントン長官がワシントンに帰りまして、日本の大使を長官室に呼び出しました。そこでクリントン長官が大使に言ったのは『鳩山総理は嘘をついたではないか』と『何にも前向きな事はないのにそのような嘘をついた』というふうにクリントン長官は大使に言ったのであります。これは全く侮辱的なことでありまして、アメリカと敵国の間でさえ、このような発言というのはないだろうと思います。


 アメリカ人以外でしかも日本の政治の動きの事をつぶさにフォローしているという人間はそうあまりいないわけでありまして、私が数少ない例だと思いますが、実はあともう一人います。ケビン・マコーミックというオーストラリア人がいるんですけども、優れた歴史家であり、また優れた日本研究家でもあるんですけども、彼が一度こう言う事を言ってました。『ワシントンがここまで日本に対して荒っぽい言い方をする、あるいは非外交的な態度で臨むという事は昔は一度もなかったことであり、しかも他の国とだって絶対にあり得ないことであり、ましてや敵国を含めてもここまで荒っぽく、しかも非外交的な言質を弄するという事はワシントンは今までやったことが無いと思う』と彼はコメントしていました。


 民主党が政権の座に就いたあの総選挙の前ですけれども、ヒラリー・クリントン長官が東京に来ました。その時に彼女が言ったのは『どのような党が政権を担うことになったとしても我々が望むような事をとにかく今までと同じようにやるだけである』というコメントを発しております。選挙の後にゲイツ国防長官が日本に来ました。そのときには防衛大臣と国防長官というのは伝統的に晩餐会を共にするというのは普通なわけですけれども、そのように彼のために用意されました晩餐会に出席する事をゲイツ長官は断りましたし、それからまた閲兵に対して自分がその栄誉をうけるという、閲兵行為というのも断ったという事がありました。これは本当に有り得ないような異例なことでありまして、非外交的なことであり、しかもまた大変侮辱的なことであります。


 私は自問自答してみました。なんでこんなふうな変なことになるんだろうと考えてみました。ワシントンにおきましてはあたかもどこまで押しこんだら日本人が終に怒るかなと、いつになったら日本人が怒るかなと、試してみようと思っているかのように思われます。


 色々なバラバラのピースを集めて考えてみますと何か見えてくることがあります。まず第一に民主党政権が生まれたという時に、ある意味で少し状況が変わったわけであります。はじめて日米同盟関係というのを考え直そうというようなことが言われるようになりましたし、また日米関係というのはより対等な関係でなければいけないという事も言われるようになりました。そういう事をしなきゃいけないということは多くの人たちがそれまでも言っていたことであります。


 アメリカのメディアがどういう論評をしていたかという事をフォローして考えてみますとやはり何かが見えてまいります。人々に対してワシントンがブリーフィングをするわけですけど東京から何かジャーナリストが報道してそれがブリーフィングになるということが殆どないような状況でありましたので、ワシントンで人々がフリーフィングを受ける時には、ワシントン側としてはアジアの事を考える時に懸念の対象となるのは中国だという事がずっと最近まで続いてきたけれども、ひょっとしてこれは変わらなければいけないんじゃないかと。日本が懸念になる、というふうになるのではないかというブリーフィングであります。すなわち懸念というのは日本の側で何かが起こることによってアメリカが心配しなければいけない、懸念しなければいけないというふうになるのではないかという言いぶりであります。


 こういうふうに人々にブリーフィングを与える官僚たちでありますけれども、この官僚たちというのは20年前とは全然違っております。20年前でありますと国務省の中にはいわゆる知日派と呼ばれるような人たちがいて、日本の事をよく理解し、そしてポジティブな関係に持っていくように日米関係を引っ張っていく、あるいは導いていくというような官僚がいたわけでありますが、その官僚たちは今やもう辞めてしまっていて、現在、日本担当をしている国務省の人たちというのは全部国防省の同窓生と言っていいような人たちばかりであります。もちろん国務省の中にも国務省の人たちもいるわけですけれども、しかしながらその数少ない人たちを除きまして殆どの人が国防省のバックグラウンドを持ってる人ばかりであります。この国防省から来たような人たちというのは視野が狭く、言ってみればトンネルの中からしか世の中をみる事が出来ない、三次元的な世界観というのを持ち得ない人たちでありまして、全く先程から申しておりますコントロールが効かなくなった軍国主義的な、軍産複合体的な、そういった発想をフォローするような人たちが現在、国務省におきましても日米関係を担当しているわけであります。アメリカの政府の高官たちもこういった軍国主義的な人たちによって席巻されており、しかも日本観、日本をどう見るかというのも結局は彼らの目からしか見ていないのであります。


 こういうアメリカの官僚たちが立っている前提というのは、何をしたとしても日本のマスコミというのは抗議をしないだろうという前提に立っているわけです。これは私の生まれ育ったオランダもそうかもしれませんけども、いつもと同じくこれまでもそうだというようにアメリカというのは自分の国を守ってくれる国なんだと。だからアメリカとの関係というのは、ちゃんとアメリカを満足させる、ワシントンを満足させるような形で運営させていかなければいけないんだと、そういうふうに必ず思っているだろうという前提です。


 その文脈においてインターネットである文脈を発見しましたので、これについて私の冒頭発言の結びとし、そのあと皆様方の質問をお受けしたいと思います。インターネットで見つけたものは何かと言いますと、これは共同声明であります。これは“古い約束を新たにし、そして新たなフロンティアを探査する”というふうに題された、ある共同声明でありまして、これは日米アライアンス、それからまたリベラルな国際秩序を求めて、というところが出しました共同声明で、それを開催しましたのは、『東京財団』と『新しいアメリカの安全保障のためのセンター』『日米関係の未来を研究するグループ』という組織の名前が出てましたが、そこが出した共同声明であります。


 私がどうしてこの共同声明に関心を持ったかというと実はその主催団体の一つとして名前が出ております『Center for New American Security』[新しいアメリカの安全保障のためのセンター]というシンクタンクにつきまして、私の本の中で言及しているからです。私の本の中でどのように言及しているか、書いた部分を読みあげたいと思います。

 『Center for New American Security』は比較的新しい組織だけれども、『CNAS』と呼ばれワシントンに作られている組織ですが、例えばこのシンクタンクなどはアフガニスタンにおける戦争を拡大するという事を売り込んでいるセンターであるし、またひとつの意見を形成しているシンクタンクである。すなわち、アメリカの軍事力を非常に大規模にイラクに存続させるという事が論理的であり、正しい事なのだというような事を謳い、その意見を形成しているセンターであります。この『CNAS』という組織がどれだけ信頼の出来る組織なのかという事は、よく彼らが言っている所の『中立で超党派の組織』だという事を言われているけれども、そこには有名な共和党員も民主党員も評議会の中に入っているのだから、ということで『CNAS』が信用に足る組織だというふうに言われています。しかしながらこの組織の資金はどこからきているかという事を見れば、兵器メーカー、ボーイング、ロッキード・マーティン、ジェネラルダイナミックス、レイセオン、そしてペンタゴンが仕事を発注しております『KBR』などから資金が来ているのです。ちなみに『KBR』というのはディック・チェイニーの『ハリバートン』から派生した一つの組織です。また、ワシントンで日本担当官の首席を務めてますカート・キャンベル、この人がそもそもアメリカの海兵隊を沖縄から移動するという元々の原案を作った背後にいた人ですが、カート・キャンベルというのはまさにこのシンクタンクを形成した最初の設立者の二人のうちの一人なのです。


 『東京財団』という所と一緒になりましてこの共同声明で言ってますのは、リベラルな国際秩序を作りだす、あるいはリベラルな国際秩序を維持するための新たな同盟関係を構築しましょうという事を呼び掛けているわけです。勿論そのこと自体は素晴らしい事でなんの問題もないわけですが、其れを呼び掛けているアメリカからの人々はどういう人であるかという事を考えてみれば、リベラルな国際秩序なんかにまったく関心を有しないような人たちが呼びかけ人になっています。アメリカ側にいるこういう人たちというのは全く軍国主義的な軍事主義的な組織の人たちで、日本としてはやりたくないと思っている行動活動をやっている人たちなのです。


 こういった観点でアメリカで日米関係を扱っているトップの人は誰かというと、リチャード・アーミテージというのが出てくるわけですが、この人はネオコンの保守派であります。彼はブッシュ政権の時に非常に重要なポジションを担った非常に大切な人物であります。多くのアメリカ人は、アメリカに行ってアメリカの要人と会いたいという日本のトップの人たちは必ず、要人と会おうと思えばアーミテージのところを経由するという形になる事が多いのです。何故ならアーミテージというのは日米関係に非常に大切な人物だと思われているからです。しかしながら、日本人という人たちというのは、自分は誰を相手にしているのかということについて分かっているんでしょうか?特に皆様方のようなメディアの方々がそこをよく理解するという事はとても大切なことだと思います。本当に日本人が話をする時に相手のバックグラウンドというのを本当に明確に捉えたうえでお話をしておられるのでしょうか?皆さま方はマスコミの方々ですので、是非その事をよく明確に捉えて頂きたいと思います。これらの人たちというのは日本人の友人ではありませんし、日本に関心なんかこれっぽっちもないような人たちであります。また、日本を独立国として関心を有する、日本を独立国として考えるということも思っていない人たちでして、日本のためにベストになること、そして地域のためにベストになるためには日本がどんな役割を果たさなくてはいけないか、などという事にも関心を持っていない人たちです。
 この時点におきまして私の冒頭の発言は終えたいと思います。


------------------------------------------------------第二幕の≪質疑応答≫に続きます。

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