SeiryuF

清流 · @SeiryuF

5th Jan 2011 from Twitlonger

人口動態とリスクとデフレの関係

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最近の日本は閉塞感に包まれ、将来に不安を感じる人が多いが、その本質的な原因の一つである人口動態とリスクとデフレの関係について説明したいと思う。そのためには、まずお金がどうやって作られているかを理解してもらう必要があるので、やや難しい話しだが重要なことなので、できるだけ簡略化して説明する。

(1)信用創造とバランスシート

まずZさんが銀行に100万円預けたとする。この時点で、Zさんの金融資産は預金の100万円。銀行の金融資産は現金の100万円、銀行の負債はZさんの預金100万円である。銀行にとっては、預金とは預金者からお金を借りているということに注意してほしい。

ここで銀行が企業Aに融資するために、その企業の口座に100万円移すとする。そうすると銀行には、新たに企業Aへの債権100万円という資産と、企業Aの預金100万円という負債が発生する。企業Aには、債務100万円という負債と、預金100万円という資産が発生する。

預金だけで見てみると、Zさんも企業Aも銀行に100万円ずつ預金しているので、世の中のお金は100万円から200万円に増えたことになる。どの時点で増えたのかと見てみると、銀行が企業に貸し出しをした時点で、お金が増えていることになる。これを信用創造と言う。

またお金が増えたときには、必ず同時に負債も増えていることに注意してほしい。逆に言うと、お金を増やすには負債を増やすしかないことになる。お金は、こうやって誰かが負債を増やして作り出しているのである。紙幣、つまり日本銀行券すらも、日本銀行にとっては負債である。

(2)老後資金や予備的な貯蓄需要

次に、人口動態と貯蓄について説明する。よく日本の家計金融資産は1400兆円といったニュースを見かけるが、これを日本の世帯数5000万世帯で割ると、一世帯あたり2800万円も金融資産を持っていることになる。しかし若い人はそんなに持っていないと違和感を感じられるだろう。一体誰がそんなに金融資産を持っているか調べると、60歳以上の世帯が6割、50歳以上の世帯が8割を持っている。なぜ50歳以上に集中するのかと言えば、多くの人が50代から老後資金を貯め始めるからである。他にもその年代の賃金が高かったり、住宅ローンを払い終わったり、子どもが自立したりして消費が減ったりという理由もあるだろう。そして日本の人口ピラミッドを見ると、その50代以降の人口が多い。つまり老後資金を貯めたがっている人達が多いということである。

(3)固定資産と負債

次に、お金を作り出すための負債について説明する。例えば、ある企業が新しく工場を建設するためにお金を借りる。その工場を稼働させることにより、商品を売り、その売上げから借金の返済を行う。その工場は徐々に消耗して資産価格が減っていくが、ちゃんと売上があれば、借金も同じように減っていく。もし借金に対して売上が少なければ倒産する。政府も同じように、建設国債を発行して、道路などを建設し、その道路を利用した経済活動が増えることにより税収を確保し、国債の償却を行う。つまり負債とは、基本的にインフラ、設備、住宅などの固定資産を作るときに増やすのである。しかし現在の日本は、人口減少社会に入り、インフラも一通り整備し終わり、企業の設備も過剰で、住宅の空き屋率も上がっている。つまりもう借金して固定資産を作りたいと考えている人が少ないのである。

(4)ストックとフロー

次に、ストックとフローについて説明する。世の中では企業や個人が消費したり、賃金をもらったりして、お金が流れている。これを以下、フローと書く。それに対して家計や企業が蓄えているお金を、以下、ストックと書く。フローが増えるときとは、一体どんなときだろうか?

例えば3人しかいない村で考えてみよう。最初に3人とも10万円ずつストックを持っており、毎月10万円ずつ使うとすると、3人の毎月の収入を合計すると、必ず30万円になる。ところが誰かが5万円貯めてストックしてしまうと、フローである消費も収入も25万円になる。その状態でストックしておいた5万円を使うと、フローも30万円に戻る。今度は、村の外から10万円借りて全て使うとしよう。そうするとフローは40万円になる。つまりストックからフローに流すとフローは増え、フローからストックに貯めると、フローは減るのである。


ここでちょっと上の話しを思い出してほしい。金融資産とは誰かの負債によって作られる。金融資産を欲しがっている人は多いが、負債を増やして固定資産を作りたい人は少ない。つまりフローとストックの関係から考えると、この状態ではフローが減ってしまうのである。

ところがフローの合計である名目GDPを調べると、この20年横ばいである。なぜフローが減っていないのだろうか?誰かが借金を増やしたり、貯金を取り崩してフローを維持してくれているのだろうか?政府、企業、家計の金融資産と負債を調べると、この20年で企業は純負債が減り、家計は純資産が増え、政府だけが純負債を増やしている。つまり政府が赤字国債を発行して、世の中にお金を供給し続けたから、企業や家計がフローからストックにお金を吸収しても、GDPが維持できていたのである。また多くの企業や国民にとっては、投資や消費することで得られる価値よりも、お金を貯めることで得られる価値の方が大きかったので、デフレになったとも言える。

この状態でデフレを脱却し、名目GDPを増やしつつも、プライマリーバランスを維持するにはどうしたらいいのだろうか?


(解決方法1)家計の過剰貯蓄の解消

一つの解決方法は、家計が貯蓄している理由である老後や失業に備えた貯蓄を減らすことである。マスコミの報道を見ていると、老後資金は6000万円必要などと煽っているものがあるが、無職の高齢者世帯の平均的な貯蓄取り崩し額は年間100万円程度である。20年間取り崩すとしても平均して2000万円あれば足りるということになる。実際は退職しても、しばらくは働き続ける人が多く、そういう人はもっと少ない額でも足りることになる。しかし年金がもらえるか不安、寝たきりになったときのお金が不安だから、多めに貯蓄しておくという人も多いだろう。また若い人でも、いつクビになるか分からないと考えて貯金する人も多いだろう。つまり将来が不安で貯蓄しようとする人が多いので、トランポリン型のセーフティネットを充実したり、社会保障に対する不安を減らしたりすれば、消費が増えることになる。

それでも消費をしてくれないのであれば、フローではなくストックへの課税である相続税や預金課税を使い、貯蓄するよりも消費や投資をした方が得になるように、経済合理性を持たせる方法もある。

ストックへの課税を大幅に増税するのが、政治的に難しいのであれば、過剰貯蓄になっている高齢者への社会保障をカットするという手もある。本来、社会保障とは、困っている人を助けるのが目的なので、日本の大半の金融資産を持っている過剰貯蓄の高齢者に、一般会計から支出するのは目的と異なっている。つまり基礎年金や医療や介護への国庫負担分だけ、過剰貯蓄の高齢者への社会保障をカットして、その財源の一部で、勤労世帯や貯蓄がない高齢者へのセーフティネットやを充実してはどうだろうか?そうすれば老後資金を過剰に貯めるメリットが減り、消費が増えることになる。ただし高齢者の資産を把握するためには、国民IDの導入と、その国民IDを銀行・証券・保険の口座と関連付ける必要がある。

(解決方法2)預貯金以外へのシフト

もう一つの解決方法は、家計に金融資産ではなく、他の資産で老後資金を貯めてもらうことである。誰かが負債を増やしてくれなければ、金融資産も増やせないが、例えば住宅資産であれば、誰かの負債は必要ない。現状、日本の住宅は20年程度で資産価値がゼロとなってしまうが、他の先進国は20年経った中古住宅にも価値がある。なぜこのような違いがあるのかを説明すると長くなるので省略するとして、日本でも長期優良住宅であれば、20年後でも資産価値が残っている可能性が高いと個人的に考えている。しかし住宅で資産を貯めても、現金がなければ消費に使えないのではないかと思われたかもしれないが、リバースモーゲージという仕組みを利用すれば、不動産価値の7割程度を年金として受け取れるのである。

(解決方法3)企業の投資

もう一つの解決方法は、企業のリスクを減らし、企業に積極的な投資をしてもらうことである。企業が研究開発や人材育成をして、技術や人材という資産を蓄積し、新たな商品やサービスを供給しようにも、いくつかのリスクが存在する。まず資金調達手段である。企業としては銀行から融資を受けるよりも、株を発行して資金調達をする方が、少ないリスクで資金調達を行えるのだが、日本の家計に占める株の割合は、他の先進国と比較して極端に少ない。また年金の運用に占める株の割合も少ない。家計にリスクを取ってもらい、株への投資を増やしてもらうのはなかなか難しいので、日本の保険年金基金の461兆円の半分を株で運用するというのはどうだろうか?実現すれば、企業は少ないリスクで資金調達ができることになる。

企業のもう一つのリスクは、終身雇用、年功賃金の日本型雇用システムである。例えば、新たに人を雇って新たな高付加価値産業に進出しようにも、進出が失敗したときにその人を解雇できないのであれば、リスクは高いことになる。解雇の規制緩和を行えば、企業は少ないリスクで人を雇うことができる。ただし規制緩和をする前に、解雇された人を再び社会に戻すため、企業からのニーズが高い人材を育てられる職業訓練などの、トランポリン型のセーフティネットの充実が必要である。

(解決方法4)産業構造転換

もう一つの解決方法は、生産年齢人口が減る以上の速さで1人あたりGDPを増やすことである。最近の産業別の就労者数の推移を調べると、主に製造業と建設業が減り、医療・福祉が増えている。しかし製造業と医療・福祉の平均賃金を比べると、製造業の方が高い。しかもこの20年の大卒求人倍率を調べてみると、サービス業は求人数に対して求職者がずっと上回っているのに対して、製造業は求人数に対して求職者がずっと下回っているのである。なぜこのような現象が起きるのかは不明だが、サービス業はマスコミや小売の店員などを通して、仕事のイメージが学生に伝わりやすいのに対して、物を作る製造業は、学生からは直接仕事が見えないので、製造業に就職したいと考える学生が少ないのではないかと思われる。義務教育の間に、1ヶ月程度の職業訓練や職場体験を何回か体験してもらうことで、子どもが将来何をやりたいかといった職業観が身につき、目的を持って進路を決める学生が増え、勉強意欲も高まるのではないかと考えられる。

しかしこれから高齢化が進むと、どうしても医療や介護に人手を取られるので、付加価値が高い産業に人材を移動させるのは難しいのではないかと思われた人も多いと思うが、それを解決するいくつかの方法がある。まずは女性と高齢者の就労率を上げることである。医療や介護は、基本的に女性に向いた仕事なので、医療や介護を女性に行ってもらい、高齢者にも豊富な知識・スキルを使っての人材育成や育児の手助けを行ってもらえば、生産年齢人口が減る中でも労働力を維持できるのである。もう一つは、医療や介護の効率化である。例えば高齢者に介護ロボットを買ってもらい、なんらかの生活サポートが必要になった場合には、そのロボットを遠隔操作することにより、高齢者を手助けすれば、効率よく介護が行えることになる。

そうすることで付加価値が高い産業の労働力を確保することができ、実質GDPも増えるので、負債も増やすことができ、貯蓄需要にも応えられることになる。

(解決方法5)教育と人材育成

もう一つの解決方法は、生産性を決める要素の一つである人材を育成することである。これからTPPなどにより国を開くのであれば、他国よりも優位に立てる産業を伸ばす必要がある。日本の得意な分野は何か、利益が高い分野は何かを調べると、研究開発、設計、デザイン、コア部品製造、販売、アフターサービスである。研究開発、設計、コア部品製造で他国よりも優位に立ち続けるには、それを支える教育と人材育成が必要になる。販売、アフターサービスをアジアや新興国で展開するためには、各国の内情に詳しく、英語や現地の言葉が使える人材を育てる必要がある。

(解決方法6)課題解決型産業

もう一つの解決方法は、人々が不安に思っていることを解決すること自体を仕事にしてしまうことである。例えば、将来の介護が不安なら、介護ロボットがビジネスとして成り立つようにすればいい。資源やエネルギーが高騰しないか不安なら、省エネの普及や、再生可能エネルギーの開発や、リサイクル技術の開発を。世界的な人口爆発が不安なら、BOPビジネスを進め、貧困国の人達の生活の質を高め、基礎教育を受けられるように。そうすることで失業者というリソースを有効活用し、国民の将来に対する不安を解消し、需要を増やすことができる。また再生可能エネルギーの開発であれば、現在海外から輸入している化石燃料代が減ることを収入減とした、新たなインフラを建設することになり、それだけ負債が増えるので、貯蓄需要にも応えられることになる。


これらの方法により、再び需要が増え、供給サイドが投資を行い易くなれば、賃金=購買力も増え、デフレを脱却し再び経済を好循環にすることができる。そうすると税収も増え、財政再建もできると考えられる。これらの解決策に共通しているのは、人々や企業がリスクを取りやすくする、もしくはリスクを少なくするということである。全員がリスクを取れば全体で得をするが、各個人や各企業にとっては先行してリスクを取ると損するという、いわゆる「合成の誤謬」に陥っている。なぜこのような状態になった調べると、この数十年に渡る目先の利益優先、問題先送りが招いていることが多い。つまり今まで先送りしてきた課題を解決し、人々が前向きに、積極的に行動できる環境を整えることが、日本復活の鍵である。

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さらに興味のある方は、以下に今までの書き込みがありますので、どうぞ。

相続税の課税ベース拡大(控除額)について
http://www.twitlonger.com/show/6vlj08

日本のバランスシートを適正化するための痛みの少ない方法
http://www.twitlonger.com/show/6tpole

中古住宅価値を維持し、普及させるための政策
http://www.twitlonger.com/show/6u1cht

スウェーデン分析レポート
http://www.twitlonger.com/show/6r338t


人口動態がデフレの原因説の解説、計算、資料
http://www.twitlonger.com/show/748ba7
http://www.twitlonger.com/show/7569j6
http://www.twitlonger.com/show/75k4s4
http://www.twitlonger.com/show/7jhjck

そもそも貯蓄とは何か、貯蓄率を上げる意味
http://www.twitlonger.com/show/755o1j

失業率と高齢者の就労率について
http://www.twitlonger.com/show/7461vh

1人あたり実質GDPと、サービス業と、労働力人口、就業率について
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人材有効活用と将来不安と持続可能な社会
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日本国内投資促進プログラムについて
http://www.twitlonger.com/show/793l45

研究開発、若者女性雇用、人材育成、出産育児支援、設備投資する場合の法人税減税
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リスクという面から、日本の危機を乗り越える方法
http://www.twitlonger.com/show/7n6d9j

将来不安を解消するための投資、行政、市場原理をミックス
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資金循環、バランスシートの側面からのデフレ脱却の本質
http://beta.twitlonger.com/show/31uv1a

相続税の課税ベース拡大・増税がベスト
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社会保障制度改革による安心、消費増についての反論への反論
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人材、雇用についての意見と資料
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給付付き税額控除についての資料
http://beta.twitlonger.com/show/25064u

富の固定化と消費税に関する意見と分析
http://beta.twitlonger.com/show/2489r8

税制、金融資産についての資料
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金融税制への意見
http://beta.twitlonger.com/show/287mfq

小野善康さんと神野直彦さんについての資料、これまでの経過
http://beta.twitlonger.com/show/254as7

過去の消費税増税の分析
http://beta.twitlonger.com/show/276fpk

名目GDP、長期金利上昇と、財政と銀行の収益について
http://beta.twitlonger.com/show/2ijspr
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ハイパーインフレの可能性について思案
http://beta.twitlonger.com/show/2ejnag

バランスシートと信用創造についての解説
http://beta.twitlonger.com/show/27hilg

教育についての意見
http://beta.twitlonger.com/show/2addtu

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