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WideExit · @wideexit

26th Mar 2011 from Twitlonger

続SPEEDIに何が起きたのか?

 結局、SPEEDIに関して、その宣伝パンフ以上に、それが実際の危機管理に際して組織間関係でどのように利用されるかの具体的なシナリオが存在したのか、或はそれが存在したとしてもそれが自治体、或は官邸の危機管理の演習として機能する形で事前に演習等を実施したことがあるのか。更にそこで想定されたシナリオは、問題点を洗い出し危機管理のノウハウを検討し直す組織間学習に用いる事のできるものであったのかなどは明らかではない。それどころか、そのような情報利活用の為の組織間関係のシナリオが全くできていなかった可能性さえ疑われる。とすればこれは危機管理の組織のありかたとしてとんでもない失敗が生じていることになる。
 これは政府のトップマネージメントの問題と言うよりは、技術と社会の関わりの接点で仕事をしている工学者の問題であり、同時にそれを社会的にインプリメントしている組織(この場合は原子力安全委員会やシステムの開発維持に関る組織)の問題であろう。

5 SPEEDIのシステムは何処から来たのか?
 最期にやや憶測を交えた話を書く。ここまではSPEEDIが動いているという前提の話だった。だがどうにも腑に落ちないのが、本当にSPEEDIが動いているのかということ。そもそもSPEEDIはどのようなシミュレーション計算のシステムなのだろうか? またそれはどこの誰が開発したシステムなのだろうか。今現在動いているのだろうか?

 大雑把に言えば、この種のシステムは、次の1)から3)の3つのモジュールに区分される。
1)風速風向や降雨などに関する気象のシミュレーションシステムでこれは局所的なものと大域的なものがあるが基本的に他の気象モデルと共通のもの。これはSPEEDIでは、
http://www.bousai.ne.jp/vis/torikumi/030110.html
『予測計算図形は地上50mの水平断面を表現しているため、計算領域全体について風向・風速が表示されています』
とある。

2)そこでの様々な核種(粒子)の飛散と地表への飛散のモデル(大気中のベクレル/m3と地表のベクレル/m2)
 これは粒子の重さと放出の場所や高さなどが分かればやはり他の拡散モデルと共通のもの。

3)その核種の放射性物質が出す放射線のグレイ値と、核種の種類によって人体への影響を表すシーベルト単位での被曝線量の計算という特殊なものだが、核事故だけでなく、核テロの被害の予測モデルとは共通のものと考えられる。

 SPEEDIを構成している筈の、この三つのモジュールがどのように開発され、どのように運用されて来たかは、いずれ明らかにされる必要がある。23日に開示された図は、第三のカテゴリーの計算結果で、等高線のような形で、甲状腺の内部被曝等価線量を図示していた。この図を見て違和感を感じたのは私だけではないだろう。いささか時代遅れのプロットである。今であれば色付きの図やGISと連動したシステムなど幾らでもそのデータの利活用の可能な形の(少なくともAPIを持った)システムが提供されるのが普通である。あの出力図形のインターフェイスに疑問を感じないわけにはいかない。むろんそれは上記の1-8図の見本の中で開示されている形式であり、それ自体には疑義はない。しかしその図1-8までの事例を見ると、図1の風向風速の図形からして非常に古めかしい形式。これはただ事ではない。データの再利用用のAPIどころでの話ではない。古い大型機のソフトウェアがプロッタで出す形式のように見える。
 このようなシステムの設計では前述の三つのモジュールは独立に開発できる筈である。第一の気象モデルは事前に地形の情報(地形等はそう変化するものではない)をベースに気流の流れや雨などの影響を計算するもので、基本は流体力学的な拡散方程式をひたすら解く作業だろう。多くの気象モデルでそれぞれのテクニックが開発されているだろうし、入力が限定されているときにそれを保管して推定計算をする等のアルゴリズムもモジュールとして付け加えることは、困難ではあっても不可能ではない筈である。これは
http://www.bousai.ne.jp/vis/torikumi/030111.html
の1にあたる図の筈。
 第二のモジュールは第一のモジュールを前提に、粒子の重さ等で拡散と沈下などを計算することになる。これも原則は流体力学的方程式を解くか、或は粒子に対する気流の圧力で運動方程式を解くか(こりゃちょっと無理?)かいずれにせよ物理モデル。これにより大気中での粒子の密度(ベクレル/m3)や個々の地域での地表への飛散の様子(ベクレル/m2)が求まる筈である。これは
http://www.bousai.ne.jp/vis/torikumi/030111.html
の2と3の図にあたる。
 これらの図の形式の古さはそれが現在も開発が継続し、当該の技術者集団がコードを理解し、改変を続けているシステムではなく、どこからか導入したブラックボッックスとなっているシステムであることを疑わせるのに十分である。大型機のフォートランモジュールの臭いがする。社会シミュレーションの設計者の立場から言えば(気象シミュレーションとは異なるが)、今現在コードを開発しつづけ改善しているシステムであれば、こんな古びた出力形式を許すことはない。
 企業の技術者がしばしば恐ろしくばかばかしいほど保守的な選択をすることは身をもって知っているが、インタフェイスは別。これは工数が稼げていくらでも奇麗に、再利用できるし、普通だったら無駄なくらい開発で装飾するところ。ところがその形跡は、かけらもない。これは特定の大型機でしか稼動しないシステムであることを疑わせる。要するにWEBソリューションによる見栄えの装飾さえ難しいシステムであることを疑わせる。
 このことが何を意味するのかは今後検証する必要があるが、万が一にも、被害予測の基幹システムがどこからか購入した、内部のコードの分からないブラックボックスのシステムであったとしたら、その責任は原子力安全委員会やシステムの開発維持に関る組織にあると言わざるを得ない。

 最期に、SPEEDIが今現在(26日)動いているのかという問いかけをしたい。SPEEDIは、上記で明らかにしたように本来3月11日の事故発生後、17分で所定の図式を所定の場所に送り届けるものとして構想されていた筈である。それが現在表にでてきているのは、23日にプレス発表された一枚の図だけである。
 その背後でSPEEDIが使われているという主張だけはなされているが、避難区域の範囲の設定は、SPEEDIで計算しなくても、過去の事故の実績と洩れた量に関する推計と、実際の各地の線量計のデータから容易に行える。自治体にデータが廻っている痕跡がないことから、私は少なくとも自治体には届いていないと考える。(これに関してはぜひ福島や茨城、千葉、東京など関連の自治体の関係者でSPEEDIからデータを受取ったという方がいらしたら、その事実だけでも教えて欲しい。またそれを使って何をするかが決まっていたのかも教えて欲しい。)更に、官邸に対しても既に説明したように、確立した危機管理の標準手続きの中で、情報の活用法が定まっており、それに従って危機管理が行われて来たとは到底思えない。それどころか、計算そのものがなされていないのではないか、どこかでSPEEDIを構成するフォートランモジュールの一部で計算ができない事情が生じてしまったのではないかという疑念がどうしても拭えないのである。
 それが自己開発でないどこかの海外の軍用システムから持って来たモジュールを転用した結果であれば、救われない話である。
 最期に以下も問いかけとして残しておきたい。
『保安員は福島市に撤退。近場のポストも崩壊し、自力で入力すべきデータの調整できず。このままではまずいととりあえず計算できるデータを入力しようとするが、オンラインでの入力形式以外、上手く外部からの補間入力をモジュールが受け付けず、原因不明で立ち往生。しかたがないので動かないSPEEDIのモジュールをスキップして別途パソコンで計算したデータを図形出力モジュールへと接続し、官邸と文部省に届けるが、そもそも利用されず。自治体は本来とどけるべき経路にあるのに情報は最初から送られず』
 『気象庁はIAEAに拡散データ渡すが、官邸等への標準手続き無し。官邸等の受取側も、それを使って何をすべきかというデータ利用の危機管理のシナリオ化ができてなかった。』

以上
前編のツイットロング http://tl.gd/9gdeoc
これまでのツイットの参考URL
http://togetter.com/li/111801
http://togetter.com/li/112599
http://togetter.com/li/114199
出口

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