「『法令遵守』が日本を滅ぼす」(新潮新書;2007年)で書いたライブドア事件の評価

 通常、粉飾決算で問題にされるのは、会社の財務状況を偽って資産を過大に見せかけたり、負債を少なく見せかけたりする行為ですが、ライブドアの粉飾決算は、会社の資産から負債を差し引いた純資産自体を偽ったわけではありません。会社に入ってきたお金の会計処理のやり方に関する不正の問題です。このようなな会計処理が不正にあたるとしても、、最近の会社法の考え方の下では、なおさら違法性の程度が低いものです。会社の目的は事業によって利潤を得ることだという伝統的な考え方の下では、株式を発行したり償却したりする資本取引と、事業に関連する損益取引とは明確に峻別しなければいけませんが、最近では、会社は資金を供給者から需要者に流すための手段であり、その資金を有効に活用して得た利益を資金提供者に還元することが会社の目的であるという「ファイナンス理論」の考え方が有力になってきています。
 最近数年間の商法改正を集大成した形で、2006年5月に施行された新会社法のベースにも、会社を資金を流す道具ととらえる「ファイナンス理論」の考え方があります。それによれば、本業による資金の流れであろうと、株式発行や自社株売却による資金の流れであろうと質的な差はなく、会社の内部に全体としてお金がどれだけあるのか、それが増えたのか減ったのかということさえ決算書に正確に記載されていれば問題はないということになります。ライブドア事件で起訴事実の一つの自社株の売却益を利益に計上するという行為は、形式的には違法性が認められたとしても、現行法の下では悪質性の程度はかなり低いと言わざるを得ません。

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