2007/09/27

今、なぜ電気自動車なのか。 エネルギー国家安全保障と電気自動車 その1

電気自動車というと、環境に熱心な方でもネガティブな人が意外と多いことに驚かされることがあります。その根拠は感情的な部分であることが多々あると思います。環境保護団体の方で多いのは、電気自動車の電気が、原子力発電所から作られるから良くないのだということです。そして電気自動車が増えれば、原子力発電所も増えるだろうとおっしゃる方もいます。

確かに原子力発電は多くの議論がある問題です。原子力というものがかかえる本質的な安全性の問題、それに対しての電力会社の過去の不透明な説明、既存の原子炉の老朽化と撤去の経済問題、そして世界中で存在している事故率の高さも起因していると思われます。しかしながら、今日の日本の電力会社の閉鎖的な体質を持ち出して、電気自動車という、新たなクルマの芽まで否定してしまうことは、今後の自動車の発展にとって大きな誤りになると考えています。

又、学者の中にも、日本や世界の発電の現状を無視して、石油で発電したら、電気自動車のCO2が、ガソリン車に比べてどうなるかということを比較しようとする人もいます。現在石油発電というものが世界でほとんどないにも係わらず、この骨董品的な発電所で電気を作ったらどうなるかという計算をするのです。これは電気自動車のエネルギーの本質を理解していない滑稽な論議です。

自動車の電気への変革は、エネルギーの自由度の増大を意味します。すなわち石炭、石油、原子力、風力、水力などのエネルギーを1次エネルギーと称していますが、これは、時代によって変化してきましたし、その分布も世界的に偏在しています。この1次エネルギーを、電気という2次エネルギーに換えること、これこそが電気自動車の最も重要なポイントなのです。

このことを始めて教わったのは、私が電気自動車を始めた1990年に、元DOE(Department of Energy)のDirectorの方と会ってからです。「米国の発電は1950年代には石油が50%以上を占めていたのが大幅に減少し、1980年代の後半には、5%まで石油依存率が下がった。」ということを聞いた時でした。

アメリカには大小併せて2000社以上の電力会社が存在します。Edisonが作って独禁法で解体された発電会社や、市役所系の電力会社などその構成も複雑です。にもかかわらず、脱石油という国家の目的の中で、各社の電力の石油の依存率を、わずか30年程度の間に劇的に下げられる事が可能だと知りました。

一方で、自動車はエネルギー源を石油に依存しており、その状況はダイムラーが内燃機関を作って以来、100年間全く変わっていません。90年当時は米国の輸入割合が、米国の石油の全消費量の過半数を超えていました。中東への石油の依存度が高くなり、国家安全保障上の懸念が発生した直後の状況でした。

もし自動車のエネルギーを、石油から電気という2次エネルギー源に変えれば、エネルギーの自由度は大幅に増大し、国家のエネルギー戦略を自由に変えることができる。それがDOEの研究所が、長期にわたって電気自動車をコツコツとあきらめることなく、続けている理由なのだと理解できたのです。

私が電気自動車を始めてから17年間、電気自動車をはじめとする代替エネルギーに関する世論、周辺状況は大きく変わっていました。 排気ガス、地球温暖化、石油価格の高騰、エネルギー国家安全保障、そして最近の農業政策を背景としたバイオエタノールです。

この中で、私は会社で一貫して、電気自動車を企画・開発し、電気自動車を世の中に市販化してきましたが、社内やマスコミの電気自動車の評価は上がったり下がったりを繰り返してきました。

今、電気自動車は再び、不死鳥のように復活をしようとしています。この芽を決して絶やしてはならないのです。電気自動車の本当のメリットをはっきりさせること。すなわち自動車を取り巻く情勢(環境)がどのように変化しようとも対応できるのが、電気自動車だというコンセンサスを定着させることがまず必要です。

たとえば、電力の90%を水力発電でまかなっているブラジルでは、電気自動車は水力自動車(水車)になります。風力発電の多い地域では風量自動車(風車)になりますし、フランスでは原子力自動車、ロシアやアメリカのテキサスでは天然ガス自動車ということになります。家庭で、太陽電池を使って発電していれば、それこそ電気自動車はソーラーカーと言っていいかもしれません。家庭のコジェネ(発電と冷暖房をかねた装置)を使って、電力会社に頼らない経済的な発電も可能です。

時代は変化しつつあります。そして1次エネルギーは石油がエネルギー全体に占める割合がピークを過ぎています。(石油の生産量のことではなくあくまでも全体での比率です。) 今、様々のエネルギー源が検討され、再生可能エネルギーというものも出てこようとしています。更には、21世紀末か22世紀には核融合といったものも使われえるかもしれませんし、太陽電池の効率が飛躍的に向上する時代が来るかも知れません。

技術の進歩に頼るだけではなく、もちろん電力の自由化など、政策面での電力会社任せにしないエネルギー供給の方法も作っていかなければなりません。(日本の電力会社は電気自動車に取り組んでいるという宣伝はしますが、自動車会社が作った車を購入しているだけで、過去1箇所の充電機も立てていません。これはフランス、アメリカと比べても、残念ながら非常に後向きの姿勢です。)

今の世界情勢の中で、エネルギーはその時代と国情に合わせて使い分けられるようにすることが、国家の経済と安全を守る要になると思います。電気自動車はそのためのひとつの極めて有力な手段なのです。技術的な課題は、まだありますし、社会の投下資本もまだまだです。しかしながら2次エネルギーを使うという、電気自動車の方向に向かって進むことが私は非常に大事なことだと考えています。

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