【TPP関係国協議 識者に聞く】『外交力のなさを露呈 拓殖大学客員教授 関岡英之氏』|日本農業新聞19日

 米国・ハワイでこのほど行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)関連行事で、三つの失態が発覚した。

 まず、日米首脳会談での野田佳彦首相発言についての発表が米国側と日本側で食い違った上、米国側に訂正を突っぱねられたこと。関税撤廃の例外扱いという、国内慎重派を説得する上での核心的部分で、米国側の認識との落差が露呈したのは重大だ。

 二つ目は、TPP首脳会議への出席を期待していた野田首相が門前払いされたこと。

 そして三つ目は、ロン・カーク米通商代表(USTR)がTPP交渉参加の条件として日本に迫った重点分野に、牛肉とかんぽ生命(簡易保険)に加え、「想定外」だった日本の自動車市場の開放要求が突き付けられ、「関係者に衝撃を与えた」とされたこと。事前の情報収集と根回しの不備は明らかだ。

 玄葉光一郎外相は「(TPP交渉への早期参加で)ルールメーキングに参画する」と豪語してきたが、この程度の外交力で、交渉の主導権を握り、日本に有利なルール作りを果たすことなどできようはずがない。

 TPP推進派は交渉参加を表明さえすれば、オバマ政権が温かく歓迎してくれるものと甘い幻想に溺れていたのではないか。だが、米国は容赦なく冷水を浴びせ、米も含めた例外なき関税撤廃と徹底した自由化に向け、早くも日本に宣戦布告してきたといえる。

 米国はカーク代表が言及した3分野以外でも、農作物、共済(保険)、医療品など、自らが強い競争力を持つ分野で対日要求を強めてくるだろう。今後は米国の要求を仮に受け入れた場合の国民生活への打撃などを個別具体的に検証し、TPPをめぐる国民的議論をより深めていくことが重要である。

 せきおか・ひでゆき 1961年東京生まれ。慶大卒。東京銀行勤務を経て現職。TPPに関して『国家の存亡』(PHP新書)。

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