論説『消費者とTPP 安心食材へ明確な声を』|日本農業新聞25日

 消費者の声があまり聞こえてこないのはなぜだろう。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加問題についてである。TPP参加で大打撃を受けるのは農家だけではない。消費者、特に生産手段を持たない大都市の消費者はいずれ「どういう食材を選択するか」が問われる。身近な所に生産地を持つことが新鮮で安心な食材を手に入れる道と考えるなら、国内産地の崩壊の危機を漠然と眺めていてはならない。明確な声を上げるべきであり、その声はTPP参加阻止の大きな力になるはずだ。

 TPP問題は経済的な影響だけでなく、医療や教育、交通ネットワークなど社会構造や文化にまで及ぶ。日本語までが非関税障壁として俎上に上がりかねない。「国の形を変えかねない」との懸念が上がるほどだが、国民が是非を判断する情報提供が少ないのが現状だ。消費者にとって最も分かりやすいのは日々口にする食料への影響だ。日本消費者連盟など消費者団体は、遺伝子組み換え食品の表示義務撤廃や残留農薬基準の緩和、食品添加物の承認拡大など主に食品の安全面での問題点を挙げ、交渉参加の撤回を求めている。しかし、消費者が確実に直面するのは国産食材の品薄という事態である。TPP参加で国内主要産物や地域特産品は軒並み大打撃を受け、低い食料自給率はさらに下がる。店頭に並ぶ国産品はいずれも「高嶺の花」になりかねない。

 自ら生産手段を持たず、近くに生産地を持たない大都市の消費者は、地方の農産物直売所の動きを知っているだろうか。地域の農家が生産する安心感、新鮮さ、安値が魅力である直売所は最近、「地産地消」から「地消地産」へ軸足を移す店が出てきた。できた物を提供するだけでなく、地元消費者が望む物を作る動きである。JA直営の大型店舗に見られ、店所属の営農指導員を置くJAも出ている。

 お膝元の地域の消費者を重視し、生産計画を組む。地元消費者が求めるものを生産し、気象条件で作れない作物はJA間連携で調達する。かつてどの産地も購買力のある大都市に顔が向いていたことを考えると、大きな変化である。大都市の消費者にとって「地産地消」はない物ねだりであるが、地元消費者重視の動きが今後とも進むとすれば、生産地から遠い大都市の消費者はさらに苦境に立つ。

 世界貿易機関の農業交渉でわが国は「多様な農業が共存できるルール」を主張してきた。地球上には多様な食文化があり食文化は言語と並び民族の同一性を保つ重要な要素だ。その食文化を支える多様な新鮮食材をどう手に入れるか、選択するのは消費者である。そして、わが国の農業の未来は、買い続け食べ続ける消費者がいるかどうかにかかっている。TPP交渉参加を黙認したのでは、ゴールは正体不明の食材が食卓を飾る食文化の末路となろう。明確な声を上げてもらいたい。

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