【広がる危機感 1】『同じ轍を踏むな 全森連・林正博会長』|日本農業新聞4月17日

 環太平洋連携協定(TPP)で林業と同じ轍を踏んではいけない。木材は、1964年にほとんどの関税が撤廃されたことで、70%以上あった木材自給率が28%に落ち込んだ。国産の木材は輸入品の価格に左右され、採算が合わないほど低下した。TPPで農業を含めた第1次産業全体が同じような被害を受ければ、山村地域が持たなくなる。何回でも繰り返して言う。同じ轍を踏んではいけない。

■国民的な議論を

 政府が、現在どういう事前交渉をしているのか全く見えない。マスコミの報道に右往左往しているのが現状だ。野田佳彦首相は昨年11月に「情報収集に努め、十分な国民的議論を経る」と明言した。だが、全くなされていない。まず情報を公開しなければ、国民的議論にならない。TPPの詳しい内容を政府に聞いても、それは交渉に入らなければ情報が得られない、の一点張りだ。そうではなく、まず国として、何をどこまで守るのかの大方針を提示し、国民的な議論を深めることが大切だ。

■農林漁業は一体

 林業、農業、漁業は一体だ。地元の北海道では、林業など他の仕事を掛け持ちしている農家が多い。森林が荒れて、川から海に土砂が流れ込めば海産物にも打撃を与えてしまう。TPPに参加すれば農業、林業、漁業に連鎖的に影響が広がり、農村部に人がいなくなる。林業の「切ったら植える」を繰り返してきた日本の文化は失われ、次世代に森林が引き継げない。地域社会は崩壊するだろう。

 第1次産業は、就業者の平均年齢が60代以上で先がないといわれる。だが第1次産業が高齢者の雇用の場となり、生きがいとなって健康を維持できている。それによって、社会保障費を抑えている側面も大きいはずだ。高齢化率の高い日本の特徴に合った産業が林業であり、農業であり、漁業だ。TPPに入っても入らなくても、高齢化の進む第1次産業の将来がないなんていう論調は、ばかげている。

 ふるさとがなくなるということの重大さに、都会の人は気付いていない。帰れるふるさとがあることが、どんなに心のよりどころになっているかということを考えてほしい。全森連は、農業団体など他の団体とのネットワークを大切にし、これまで通り、TPP交渉の参加に反対していく。ふるさとをなんとしても守り抜く決意だ。(聞き手・高橋秀昭)

はやし・まさひろ 72歳。北海道名寄市在住。2005年5月に北海道森連会長、09年10月から現職。


 関税の原則全廃や規制の大幅な緩和・撤廃で「国のかたち」を変えるといわれるTPPの交渉参加について、反対・慎重論が各界に広がっている。主な団体の代表に意見を聞いた。

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