【広がる危機感 2】『乱獲を招く恐れ 全漁連・服部郁弘会長』|日本農業新聞4月18日

 貿易交渉のたびに水産物は関税が引き下げられ、安い輸入物が洪水のように押し寄せ、漁業経営は危機的な状況だ。不漁でも価格は上がらないため、過剰な漁獲をしなければならない状況に追い込まれている。原油価格の高騰も追い打ちをかけている。経営がこれだけ厳しいと後継者も育たない。

 水産物の関税は平均4%だが、アジやサバ、イワシなどでは10%の物が多い。これ以上関税が下がったらもう持たない。

■ 水産資源が悪化
 
 環太平洋連携協定(TPP)への参加は、世界の水産資源の悪化にも拍車を掛ける。養殖も含めると、世界の水産物の4割は輸出に向けられている。需要が多い日本がTPPに参加すれば、輸出目的の乱獲を招く恐れがある。

 TPPをめぐり、米通商代表部(USTR)が提案しているとされる漁業補助金の制約も懸念している。国からの補助金がなくなれば漁業は成り立たない。特に東日本大震災からの復旧・復興の経費が全て自前となれば全く進まなくなる。ただ、この問題は情報がほとんどない。交渉でどういった議論がされているかなど、詳しい情報を集め、伝えるよう政府に求めている。

 震災では日本で一番立派な漁場が被害を受けた。海底に残るがれきも大きな問題だ。復興には何十年もかかる可能性がある。復興に悩んでいる時に追い打ちをかけるようなことがどうしてできるのか。

 国は食料自給率を上げるとか、後継者・担い手育成とか言っているが、漁業者も農業者も、採算が合わず生活できなければやめるしかない。さらに自由化となれば反対の方向に行ってしまう。

 いくら車があっても、お金を持っていても、食べ物がなければ生きていけない。食料需給によっては、輸出を禁止する国もある。自国の食料は国の責任で確保すべきで、こうしたことは生産者が言う前に、政府として当然、考えるべきことだ。

■ 連携し反対運動
 
 TPP交渉への参加を防ぐには農林水産業、食品産業、消費者、医療などの団体の連携が必要だ。各団体が連携して開いたTPP反対の全国集会で、林業者が「貿易自由化により山林が荒れ放題となった」と報告したことが忘れられない。これは国の政策の失敗だ。農業や漁業もそうならないためにTPP交渉参加には反対しないといけない。

 森や田が荒れれば漁業にも悪影響が出る。普段からの連携をさらに深めたい。食料自給や地域の維持といった観点をはじめ幅広い分野の人と連携し、国民の理解を得ていく必要がある。(聞き手・木村俊哉)

 はっとり・いくひろ 1945年、香川県東かがわ市生まれ。93年引田漁協組合長、2007年から現職。

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