『識者からのメッセージ―岩上安身氏・鈴木宣弘氏・関岡英之氏・東谷暁氏』|日本農業新聞4月25日

◇異常で不平等な条約 ジャーナリスト IWJ代表 岩上安身氏

 TPP推進論は無批判な自由貿易信仰の延長線上にあり、危険な新自由主義イデオロギーと米国の帝国主義の産物だ。TPPは日本に自由経済ではなく、とてつもない不自由をもたらす。
 
 TPPの本質は、社会保障など国民を保護する諸制度を、米国のグローバル資本にとって都合の良いものに改造することだ。既に米国はグローバル資本に寄生され、米国民は最初の犠牲者として富を奪われ続けている。教育にも医療にも異常に金がかかり、普通の国民が借金漬けになる。大学を出れば一生ローンの返済、がんにかかれば8割が破産。1%の超富裕層しか、まともな生活を送れない。日本もそんな国になってしまう。
 
 TPPのモデルとされる米韓自由貿易協定(FTA)をみても、その異常さや不平等さじゃ歴然としている。米国は、米韓FTAの次はTPPで日本やアジア諸国の経済的植民地化を狙っている。TPPは日本にとって時期尚早なのではない。現時点はもちろん、将来においても、主権を明け渡すような不平等条約を絶対に結ぶべきではない。


◇格差の拡大を許すな 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 TPP交渉の現状は「情報収集のための事前協議」と言われているが、それはうそだ。米国から懸案事項の解決を突き付けられて、それが整えば参加が成立してしまう。これはもう交渉の一部だ。投資や金融などの自由化徹底で、ベトナムに本格的に進出できるのがTPPの利益だという経済界の主張から分かるように、TPPは最も空洞化を促進するFTAで、日本人の雇用は縮小する。ごく一部の人々の利益のために雇用が失われ、食料や医療も行き届かない格差社会を拡大しようとしている。
 
 日本やアジア、世界にとって均衡ある社会の発展と幸福につながる真に互恵的な経済連携に向けて、先頭に立って提案することこそ日本の使命ではないのか。国民には情報を与えず、米国に「何でもやりますから参加させてください」と言ってしまいかねない政府を許していいのか。官僚も政治家もマスコミも「良心の呵責」はないのか。反対を表明された良識ある政治家の覚悟ある行動が問われている。
 
 
◇延命利用は言語道断 拓殖大学日本文化研究所客員教授 関岡英之氏

 野田佳彦総理は5月18、19日に米国ワシントンで開かれるサミットに出席する予定にもかかわらず、4月末からの大型連休中に訪米するという。1カ月に2回も訪米するという異常な事態だ。何のための訪米なのか。
 
 政権交代以降、総理の米国公式訪問が一度も実現していない。これまで鳩山由紀夫元総理も菅直人前総理も、総理在任中は国連総会に出席するためにニューヨークを訪れただけなのだ。野田総理は民主党政権初の米国公式訪問を実現し、米国から「正式な政権」として認知してもらいたいのだ。菅前総理も辞任の間際まで訪米にこだわった。その目的は、個人的な野心と自身の政権延命以外の何物でもない。米国側に足元を見られて、見返りを迫られるのが関の山だ。
 
 11月に大統領選挙を控えて成果を焦る米国のオバマ大統領から、TPP参加に外圧をかけてもらいに自ら出向くようなものではないか。日本の経済社会、国民生活、そして未来に甚大な災厄をもたらすTPPを、自らの政権延命に利用するなど言語道断である。
 
 
◇身勝手な米国の要求 ジャーナリスト 東谷暁氏

 私は米国側の要求が、ますます米産業界の特定分野に傾斜していることを憂慮している。
 
 米通商代表部(USTR)は、農業、自動車、保険の三つの分野で日本に妥協を迫っているが、これらの分野は、巨額の政府補助金で支援している農業団体、ゼネラル・モーターズ(GM)など米政府が株主の自動車業界、最大規模のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が事実上国営であるような保険業界の圧力を背景にしているのだ。
 
 米国は簡保や共済といったコミュニティーに根差した保険業務を、日本政府が影響を行使する不公平な制度だとして変更や廃止を迫っている。しかし、これらの分野で政府が甚だしく関与しているのは、日本というよりも米国の方なのだ。
 
 米国は最近、中国やインドなど政府が経済に強く関わる国を「国家資本主義」として批判しているが、実は、世界最大規模で「国家資本主義」を実践しているのは米国に他ならない。TPPにおいても、ますます米国の「国家資本主義」は顕著になろうとしている。

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