【TPP反対 現場は訴える】『“命に格差”許せない 茨城県厚生連』|日本農業新聞4月25日

 3月のある夜、JA茨城県厚生連の水戸協同病院(水戸市)に、貧血で倒れた若い男性が救急車で運ばれてきた。診断結果は臓器から出血する「消化管出血」。これまでも下血などの症状はあった。しかし経済的な余裕がなく、病院で治療を受けたことは一度もなかったという。

 同病院では最近、明らかに病気でありながらも受診を我慢する人や、診療代が払えない人が増えている。県厚生連によると、県内には診療代未払いが年間1億円を超える厚生連病院もある。

 「今でも医療費を払えない人がいる。国民皆保険制度が崩壊したらどうなるのか」。同病院の川又光子看護部長は、TPP交渉への参加に前のめりな野田佳彦首相に憤りをあらわにする。「今の医療の現場を見てほしい。TPP参加なんて絶対言えない」

 医師や看護師ら医療従事者のTPP交渉参加反対の声は、JAグループや生協、市民団体などの運動と各地で連結しながら全国に広がる。

 18日には、日本医師会など約40の医療団体でつくる国民医療推進協議会が東京都内で、TPP問題で初の総決起集会を開催。「わが国の医療が営利産業化し、受けられる医療に格差が生じる」と、交渉参加に「断固反対する」との決議を採択した。

・揺らぐ国民皆保険 参加阻止へ結束 医療団体

 政府・与党のTPP推進派は医療団体の反対姿勢を和らげようと、参加国との事前協議から得た情報だとして、「米国は公的医療保険の廃止は求めていない」と、医療団体に何度も秋波を送っている。

 しかし医療団体は「TPPに参加すれば公的医療制度が揺らぐのは明らか」(日本医師会)と、反対姿勢を崩さない。

 米国は従来から、株式会社の病院経営への参入や混合診療の導入などを日本に要求。米通商代表部(USTR)が2日公表した外国貿易障壁報告書でも、新薬などの価格を高く設定できる制度の導入を求めた。

 国民皆保険制度の見直しを直接的 には求めなくても、個別の規制緩和が“ありの一穴”になって市場原理が医療にどんどん持ち込まれ、公的医療制度が縮小に追い込まれる――。そんな危機感が反対運動の根底にある。

 茨城県医師会は、全国の医療団体に先駆けてTPP交渉参加反対運動を展開してきた。昨年8月には県選出の国会議員17人にTPP参加への是非を問うアンケートを実施。「今後の選挙の推薦の重要な要素」にするとし、「踏み絵」を迫った。結果は、13人から「反対」、1人から「慎重」との回答を引き出し、3人が保留だった。

 地元のJAグループ茨城など農林漁業団体とも連携。TPP交渉参加反対集会や県選出国会議員への要請集会、TPPの危険性を学ぶ学習会を共に開いてきた。

 県医師会の齋藤浩会長は、交渉参加に今後も徹底して反対していく決意を表明。「苦しむ人に平等に接するのが医療だ。TPPに参加して公的医療保険を破壊し、金さえあれば良い医療が受けられ、金がない人は受けられない。日本をそんな社会にしてはならない」
(渥美正和)

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