【TPPへの対応 各党幹部に聞く②】『背信行為許されない 公明党・井上義久幹事長』|日本農業新聞4月27日

 ――TPP交渉参加問題をめぐる政府の対応をどうみているか。

 野田佳彦首相は昨年11月に関係国との事前協議入りを表明した際、各国が日本に何を求めているか情報を集めて開示し、TPP参加のメリットとデメリットについて国民的な議論をし、国益に沿って判断すると述べた。

 それにもかかわらず情報開示は不十分で、国益にかなうかどうかを判断できる材料を提供していない。国民的議論も尽くされていない。こんな状態で交渉参加を表明すれば国民への背信で、それは許されない。

 ――東日本大震災からの復興への影響は。

 東北の被災地では農地の除塩や土壌改良が進み、圃場(ほじょう)整備による集約化の検討も始まった。しかしTPPは土地利用型農業を中心に深刻な影響を与える。首相が仮に交渉参加を表明すれば、復興を目指す担い手は意欲をそがれるだろう。TPPで関税が撤廃されると農家の経営は大きな打撃を受け、農業の多面的機能も損なわれる。それは絶対に避けなければならない。

・責任持ち情報開示を

 ――環太平洋連携協定(TPP)問題に政府はどう対応すべきか。

 交渉参加国との事前協議に臨むに当たって政府の統一方針が確立されていないから、出てくる情報もばらばらで統一されていない。相手国が何を望んでいるかも分からず、どう対応するかという基本的な考え方が定まっていないからだ。

 米が関税撤廃の例外品目になる可能性があるという情報が流れたこともあった。それは正確な情報なのか、政府の方針に基づく判断なのか極めて不明確だ。こういう状態では、事前協議という名で、実際には交渉に参加しているのと同じような協議が進んでいるのではないか、という疑念さえ持ってしまう。TPPは関税撤廃と非関税障壁の緩和、ルールの変更を同時に行う極めて特殊な協定。規制緩和などが「アジアの成長を取り込む」ことにどう関係するかも不明確だ。政府は国民への説明責任を果たしていない。

 政府は(マスコミ主催の)シンポジウムなどで説明したと言っているが、情報開示は極めて不十分だ。政府が責任を持って主体的に情報を示し、国民的な議論をしたことは一度もない。TPPは農業分野に加え医療や医薬品、保険、公共事業の規制撤廃など幅広い分野が対象になるが、政府は全体的なメリットやデメリットをきちんと示していない。議論の材料が決定的に足らないのだ。

 日本医師会などが所属する国民医療推進協議会が反対集会を開いたことは、TPP問題が農業だけにとどまらないことの表れだ。日本の医療を担う人々が危機感を抱いていることは、重く受け止めなければならない。

 ――TPPをめぐる最大の問題点は。

 やはり一番は農業分野への打撃だ。農業は国の基(もとい)。農業の将来像を描く上で、TPPがどう影響するか十分に示されていないことが問題だ。輸出が見込めるごく一部の品目などに着目し、「TPPでも大丈夫だ」とする議論が政府内にあることにも危機感を持っている。

 農業の価値は生産額だけでは表せない。食料安全保障や国土維持にも貢献している。そうした側面も含めて、政府は何が国益か判断する軸をしっかりと持つべきだ。

 TPPで取り上げられている投資家・国家訴訟(ISD)条項の議論も深まっていない。ISD条項で、日本の政策より米国の企業の思惑が優先されてしまう危険性を国民が十分に認識し、その上で是非を決めなければならない。TPPは国のありさまを変えてしまう恐れがある問題なのだ。(聞き手・拓殖昌行)

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