【TPPへの対応 各党幹部に聞く③】『参加断念へ重要局面 共産党・志位和夫委員長』|日本農業新聞4月28日

 ――TPP交渉に向けて政府が関係国と行っている事前協議をどうみるか。

 「関税ゼロに例外なし」と全ての交渉参加国に念押しされたことに危機感を持っている。農産物の場合、90~95%は即時撤廃、残る関税も撤廃すべきだとの考えを支持する国が多数で、除外を求める声はなかった。

 非関税障壁をこじ開ける米国の狙いも鮮明化した。同国政府による意見募集では、産業界や多国籍企業から米国のルールで日本を大改造する要求が並ぶ。食品安全の規制緩和、簡保と共済つぶし、混合診療の拡大などがそうだ。

 さらに米国は、牛肉と自動車、保険の3分野の市場開放という日本の身ぐるみを剥がすような要求を「交渉参加の前にのめ」と突き付けてきた。野田佳彦首相は「守るべきものは守る」と国民と約束したが、これは全くの空約束にすぎない。

 ――訪米時に首相が参加表明するのではないかといわれている。

 政府がTPPに前のめり姿勢であることは確かだ。党派を超え、国民的世論と運動で参加断念に追い込む重要な局面だ。

・食料主権確立譲れぬ

――環太平洋連携協定(TPP)問題で政府は説明責任を果たしていると思うか。

 ニュージーランド政府によれば「TPPの交渉内容は秘匿、交渉妥結後も4年間公表されない」との合意があるという。国会の代表質問で問いただしたところ、政府は事実を認めた。こうなれば、事前協議を始める時に首相が「十分な説明責任を果たし、国民的合意で結論を得る」という言葉は説得力を持たない。

 実際、政府は断片的は情報しか開示せず、協議内容や全体像すら分からない。これでは国民は目隠しされ、国会には妥結した交渉結果だけ押し付けられ、交渉経過は全く分からないという状況になりかねない。国民生活へのメリットもデメリットも全て包み隠さず報告されるべきだ。そうならなければ事前協議自体を打ち切るほかない。

 ――TPPを機に、与党は戦略を伴った経済連携の在り方を探っている。外交面での「譲れぬ一線」は何か。

 食料主権の確立だ。関税の設定、国内対策をどう講じるかなど、自国が決定権を持つことが最低条件となる。また多国籍企業が栄える一方で、各国の経済が滅びるようなことになってはならない。投機の規制を含め、多国籍企業の行動を国際的に監視する仕組みも必要になる。

 2年半前の政権交代は「古い自民党の政治を変えてほしい」という国民の願いが込められていたと思う。しかし、外交面は米国のいいなり、内政は財界中心という既存の枠組みから抜け出すことができず、今や民主党は自民党とうり二つの政党になったといわざるを得ない。日本の主権を維持するためにも、米国、財界中心の構図から一歩踏み出すことが重要だ。

 今年は日米安全保障条約が発効してから60年目となる。この時期に、TPPや沖縄の基地
問題も含めて日米安保の在り方を国民的に議論すべきだと感じる。本当の独立国である日本をつくる方向にこそ未来がある。

 ――行き過ぎた新自由主義が地域の絆や連帯に影響するとの声もある。

 新自由主義が持つ「一人勝ち」「優勝劣敗」が、協同組合が持つ人々の連帯をずたずたに断ち切ることになる。

 東日本大震災の発生ををきっかけに、社会的連帯が重要性を増している。被災地ではJAや漁協が協同組合の精神を発揮し、復興の要として機能している。そうした取り組みを応援するのが、本来、政治の役割であるはずだ。
(聞き手・阪上裕基・橋本陽平)

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