『TPPと情報操作 報道に踊らされるな ノンフィクション作家 関岡英之』|日本農業新聞4月30日

 野田総理の訪米に先立つ4月24日、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に反対する超党派の国会議員が国会内で集会を開いた。筆者も傍聴したが、民主党、自民党、公明党、共産党、社民党、国民新党、たちあがれ日本、新党きづな、新党大地・真民主、新党日本および無所属の国会議員191人が出席、鳩山由紀夫元総理や自民党の複数の幹事長経験者を含む錚々たる顔ぶれだった。
 
 これだけの議員が党派を超えて一堂に会したこと自体画期的だ。保守系であれ革新系であれ、議員たちの発言は真摯で憂国の情に溢れていた。
 
 無視された集会
 
 会場内にはテレビカメラの放列が物々しく並んでいたが、奇妙なことに各局は、その日のニュース番組でこの出来事をほとんど報じなかった。例えばNHK午後7時のニュースは本件を一切取り上げなかった一方で、ロンドン五輪のサッカー1次リーグの組み合わせ抽選会の模様を延々と中継した。
 
 翌日の新聞各紙も、「全国紙」5紙では本件はすべてベタ記事扱いであった。某紙などは、集会を欠席した唯一の政党であるみんなの党の代表の発言を、集会の記事よりも目立つようにわざわざ顔写真入りで報道している。あからさまな情報操作だ。
 
 いま、わが国では異常な事態が進行している。政府は説明責任を果たさず、マスコミは報道責任を果たさない。こんなことでは国の将来を誤る。
 
 それは郵政民営化の時に始まった。当時小泉総理は、国民はおろか自民党議員に対してさえ説明を拒否して「イエスかノーか」と迫ったが、マスコミはそれを一切批判しなかったばかりか、法案に反対した自民党議員たちを「既得権益にしがみつく守旧派」と一方的に糾弾し、各社横並びで民営化を推進した。あれから7年の歳月が流れたが、郵政民営化は結局、国民にとって何一つ幸福をもたらさなかった。今般、「見直し法案」が国会で成立したのは当然の帰結だが、マスコミは反省するどころか、いま再び愚行を繰り返している。
 
 TPPに関して、野田政権は国民のみならず国会議員に対しても情報開示しないが、マスコミはそれを批判せず、むしろTPP参加賛成へと世論を誘導しようとしている。
 
 マスコミはしばしば国会議員の言動を「永田町の論理」と決めつけ切り捨てるが、国会議員は国民が選んだ代表である。国会議員をないがしろにするということは、その背後に控える幾千万の国民を軽視することにほかならない。
 
 地方の理解者は
 
 東京で浮世離れした生活を満喫し、特権的地位に胡坐をかく大手マスコミ人と、毎週末に地元を行脚して選挙民の声に直接耳を傾けている国会議員。わが国の実情、とりわけ地方の苦境を真に理解しているのはどちらなのかは自明である。国民は、二度とマスコミに踊らされてはならない。
 
 
◇せきおか・ひでゆき 1961年東京都生まれ。早稲田大学大学院修士終了。年次改革要望書による米国の内政干渉を解明したロングセラー『拒否できない日本』、郵政民営化に関する『奪われる日本』、TPPに関する『国家の存亡』など著書多数。

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