【TPP反対 現場は訴える】『投資に二の足 愛知県の酪農家』|日本農業新聞4月30日

 「われわれの夢を奪わないでほしい。それだけです」。愛知県西尾市の酪農家・北村克己さん(36)は、「野田首相に言いたいことは」との問いにそう答えた。
 
 夢だった乳製品製造業を2009年に始め、仲間と結成した合同会社「酪」で独自ブランド商品の販売の拡大しようとした矢先の環太平洋連携協定(TPP)問題の浮上。先が見えないことへの不安が、経営改善に向けた投資のブレーキになっている。
 
 北村さんが経営する「北村牧場」では乳牛75頭(うち経産牛60頭)などを飼養。酪農家や異業種の仲間らと「楽酪隊」を結成し、酪農の魅力を伝える曲を東海農政局のホームページを通じて広めるなど、ユニークな活動でも知られる。



 ほぼ休みなく働いている若手酪農家にとって、親世代の引退による人員減を補うには、効率的に作業できる施設設備が重要だ。
 
 しかし、TPPは全品目の関税撤廃が原則で、TPP交渉参加国のニュージーランドやオーストラリアの乳製品とは関税なしでは太刀打ちできない。将来の不安感により、北村さんは「若手農家が投資に踏み込みにくくなっている」と話す。

・試算で酪農”消滅” 「今より安値 生き残れぬ」

 愛知県西尾市の酪農家、北村克己さん(36)も労力軽減のため、つなぎ牛舎から牛が自由に歩き回れるフリーストール牛舎に替えたいと考える。しかし北村さんの飼養頭数規模で新規整備で7500万円ほどかかる。「投資タイミングは私たちの世代にとって、酪農を続けるか廃業するかの岐路となる非情に重要な問題」と強調する。
 
 愛知県の試算では、県の牛乳・乳製品産出額(2008年で214億円)の関税撤廃による減少率は100%で、”消滅する”との結果が出ている。県酪農農協組合長の伊藤敏之さん(64)は、都府県の乳価は平均で現在1㌔約100円で生産費も同程度かかっているとして、「今よりも乳価が落ち込めば、生き残る道は見出せない」と訴える。
 
 愛知県や長野県など4県で約1000戸の酪農家が生産する生乳、年間約40万㌧を業者に販売する東海酪連も、環太平洋連携協定(TPP)反対の姿勢を明確にする。
 


 酪農と乳製品加工の両方に携わる北村さんの目標は、酪農家の思いを発信できる乳製品の販売店を持つことだ。
 
 JAグループ愛知が3月に名古屋で開いたTPPの県民フォーラム。意見表明で、約800人の聴衆に北村さんは言い切った。「日本の食は、日本の農家が守る」
 
(高味潤也)

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