『国益損失は明らか』|日本農業新聞5月2日

 今回の日米首脳会談で、TPP事前協議をめぐる米国の思惑が浮き彫りになった。大統領選を11月に控え、日本の交渉参加への反対論を抑えるためにも実利を取りたい米国政府は、国内の産業界の意見を盾に日本から最大限の譲歩を引き出そうとの方針だ。米国の戦略を前に日本が交渉参加を表明すれば、事前協議の段階で過剰な譲歩を余儀なくされる危険性が高い。TPP交渉への参加が国益を損なうことがあらためて明確になったといえる。

 両首脳による共同記者会見でオバマ大統領は、TPPについて日米2国間での「協議を続ける」との方針を示すにとどめた。会談と記者会見の両方で、事前協議の進展に意欲を示した野田佳彦首相とは対象的だ。

 懸案の3分野について米国の業界は、自動車では、日本の参加でTPP交渉が遅れるとして反対を表明する一方、自動車の輸入拡大を日本に要求している。保険では、郵政民営化法の改正は日本郵政と民間との公正な競争条件の確保に反していると指摘。牛肉では、牛海綿状脳症(BSE)の発生に伴う米国産牛肉の月齢制限の撤廃などを求めている。

 首脳会談でオバマ大統領は具体的な要求をしていない。しかし「国内の関心が高い」と指摘することで、3分野で解決策の提示を求めたといえる。

 一方、野田首相は、日米がアジア太平洋地域の貿易・投資のルール作りを主導することの意義を繰り返し強調した。しかしTPPで日本がルール作りに関与する余地があるのかは協議していない。日本が交渉に参加すれば事前協議で譲歩させられた上に、日本抜きで決められたルールの受け入れを迫られることになりかねない。

 事前協議開始に際して野田首相は「国益の視点」で交渉参加の是非を判断し、「国益を最大限実現する」方針を強調した。しかし野田首相は会談で、オバマ大統領から米国内の反対意見や懸念の声を聞くだけで、日本の農家や国会議員、地方自治体をはじめ各界各層が交渉参加に反対していることに言及しなかった。こうした姿勢で国益が守れるのか疑問だ。(ワシントン千本木啓文)

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