【TPP反対 農業だけじゃない! Part2⑤】『価格より価値を競え 地域スーパー 流通業から問題提起』|日本農業新聞5月2日

 東京のベッドタウン、約40万人が暮らす千葉県柏市。大型スーパーの出店が相次ぐ中、価格競争をやめた地域密着型のスーパーがある。同県内で8店舗を展開する(株)京北スーパー。店内には質の良い国産野菜や果物などが並び、輸入物は国産以上の質が担保されない限り、置かない。それが社長、石戸義行さん(50)のこだわりだ。多くのスーパーが環太平洋連携協定(TPP)への参加に対して口をつぐむ中、石戸さんは明快に「参加には完璧に反対」と言い切る。

 石戸さんは、同社のホームページをはじめツイッターやフェイスブックなどを駆使し、TPPが抱える問題を発信し続けている。命につながる食を扱う流通業界の一人として「おかしいものはおかしい、と言わないでこの国はどうなるのか」と問い掛ける。

 石戸さんが、TPPに懸念を表明したのは2010年11月。菅直人前首相が参加を検討すると国会で表明したことを受けて、パソコンに向かった。同社のホームページ上で「TPPを考える」と題して、こう発信した。「今後『食』というとても大切なカードを他国に渡すことになります」「増え続ける世界人口を考えても将来食料の供給に不安がある中、ある程度の自給率を守ることは国家戦略として本当に大事なことではないでしょうか」。TPPを一緒に考えようと投げ掛けた。

 返ってきた反応はさまざまだった。「TPPの本質が分かった」と賛同してくれた人も多い。一方で、スーパー経営者として「売名行為ではないか」「覚悟はあるのか」と言われた時には正直、閉口した。「誰かが何とかしてくれるだろうと、黙っていることが一番いいのかもしれない」

 それでも、思い直した。「食を海外に依存し過ぎれば、外国の言いなりになるばかり。本当に日本の将来のことを考えたら、今こそ僕らの世代が口を開かなくちゃ、格好悪いよ」

 昨年春にはフリージャーナリストの岩上安身さんと上杉隆さんの講演を聞き、「政治家は大企業や利益のある人だけの意見を聞いて、強引な理由を付けてTPPを推し進めていく。このままでは大企業は残っても、地方の中小企業は生き残っていけない」と確信。

 早速、この問題意識を共有しようと、地方の中小スーパーに話題を持ち掛けてはみたが、「大手との価格競争でそれどころではない。TPPを考える余裕さえない」と痛感した。中小のスーパーは、既に国内での価格競争にさらされていた。

 石戸さんは言う。「価格競争の果てに待っているのは経済の破綻しかない。競うべきは価格ではなく価値ではないのか」

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