『米国農業法案上院農委可決 直接固定支払い廃止 経営リスク管理に軸足』|日本農業新聞5月3日

 米上院農業委員会は2日までに、今後5年間の米国農政の基本となる2012年農業法案を可決した。年間50億ドル(約4000億円)の農家直接固定支払いを廃止し、代わりに農家が使いやすい収入保険制度を拡充するなど経営リスク管理の支援に軸足を移したのが特徴だ。(山田優編集委員)

 下院での議論が遅れているため、法律として成立するのは、現在の農業法が切れる9月末以降にずれ込む見通し。しかし米農業に詳しい関係者は「昨年の段階で予算の削減が固まり、公聴会を重ねて練り上げたので、今回の法案の骨格がそのまま12年農業法に反映される」と述べ、大幅な農政改革の方向は維持されるとみている。

 最大の変更は直接固定支払いの廃止。過去の栽培実績に応じて、相場などにかかわらず農家は固定支払いを受けることができる仕組みは、1996年農業法で農政の根幹の一つとして始まった。

 しかし、米国の農家は昨年、今年と穀物相場の高騰で史上空前の利益を上げている。経済の停滞で国家財政が緊迫する中で、農家への固定支払いに対する風当たりは強い。最後まで固執した大手の農業団体も昨年、受け入れに転じており、中西部の穀類農家にとっては想定範囲内の変更となった。

 引き換えに勝ち取ったのが、「使いにくい」と批判の大きかった収入保険の改善だ。わずかな値下がりでも補償される保険制度へ転換し、政府はその保険料を補助する。農家にとって利点は多いとみられている。

 酪農政策も大幅に見直す。所得損失補償の対象として乳価下落だけではなく、飼料価格の上昇も織り込み、農家の経営を支援する。同時に「供給調整」の考え方を導入した。市況が悪化した時に生乳に課徴金 を導入することで流通量を抑え、値下がりを防止する仕組みだ。大手の企業的酪農家の団体などは、「競争を阻害して生産コストを押し上げる」などとして供給調整を強く批判する声 明を相次いで出した。

 地元メディアが「新農業法で最大の敗者」と決め付けるのは、米とラッカセイ業界だ。現行の保護水準が大幅に切り下げられる見通しで、米やラッカセイの生産者にとって厳しい内容となった。産地である南部出身の議員らを中心に、今回の農業法案の修正を求める声が出ている。

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