『米国BSE牛確認から1週間 政府の説明「不十分」』|日本農業新聞5月3日

 米国で4例目となる牛海綿状脳症(BSE)の感染牛が6年ぶりに見つかって1週間がすぎ、政府の説明不足を問題視する声が生産者、消費者双方から日増しに高まっている。政府は「30カ月齢以上の高齢牛なので、国内に輸入されることはなく問題ない」と繰り返すだけで、飼養状況などの情報は公表されないままだ。BSE問題の消費者理解は政府が一体となって取り組む必要があるだけに、現場からは「リスクコミュニケーションが不十分」との声が相次いでいる。(尾原浩子)

・生産者・消費者に募る不安

 「あれだけリスクコミュニケーションが重要と言われているのに、国民への説明責任を軽く見ている」

 全国消費者団体連絡会の阿南久事務局長は、消費者に対し、詳細な説明をしないままの政府の姿勢を批判する。

 米国でBSE感染牛が見つかった一報を受けて4月27日に、輸入検疫徹底などの緊急要請を農水省と厚生労働省にした主婦連合会も同様だ。山根香織会長は「緊急要請したが、いまだに返答はない。このままあやふやに問題を終わらせてほしくない」と不安を募らす。

・飼養実態の開示を

 食品安全委員会が輸入牛肉の月齢を現行「20カ月齢以下」から「30カ月齢以下」に規制緩和を進める最中だけに、生産者も怒りの声を上げる。

 宮崎県JA都城和牛生産部会長の小野籍雄さん(61)は「政府の説明がないままでは消費者の不信感はますます高まる。生産者としては消費者の牛肉離れが最も怖い。ただでさえ東京電力福島第1原子力発電所事故の風評被害で苦しいのに、政府は現場の不安を全く分かっていない」と不満を訴える。

 今回、カリフォルニア州で見つかったBSE感染牛は、雌の乳牛で10歳7カ月齢。プリオンの分布が通常と異なる「非定型」で世界で60頭以上が確認され、感染原因が分かっていない。

 しかし、日本では現在、20カ月齢以下の牛肉しか輸入を認めていないため、高齢牛で見つかっても「特段の措置は必要ない」(藤村修官房長官)と輸入制限などは行わないとした。厚労省も「感染に関する詳細なデータは食品安全委員会に提供する」(監視安全課)として公式な会見は行わず、ホームページ上でも公表していない。

 政府は2008年7月、BSE対策で国内の飼料規制の徹底などを理由に、全頭検査から手を引いた。それでも各自治体は消費者の要望を受けて、政府が検査しない20カ月齢以下の牛を独自に検査し、実質的な全頭検査は維持されている。食品安全委員会や厚労省、農水省など政府が一体となって担うリスクコミュニケーションが、機能していないことを示す格好となった。

 それだけに今回の見直しは、リスクコミュニケーションの在り方が「大きな焦点の一つ」(食品安全委員会委員)となっている。

 帯広畜産大学の澤田学教授は「現時点で政府がどんな情報を収集し、どう評価しているのかを開示すべきだ。その上でなぜ輸入規制をしないのか、あらためて分かりやすく国民に説明する必要がある。説明の積み重ねが食品安全行政への信頼にもつながる」と指摘する。

※引用者注:紙面には図が載っており、日本農業新聞のサイトで確認されたい。e農net⇒ http://www.agrinews.co.jp/

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