【TPP反対 農業だけじゃない! Part2⑥】『市民の権利 必ず守る 弁護士 司法制度に圧力必至』|日本農業新聞5月4日

 町医者弁護士――。名古屋市の守山法律事務所の弁護士、岩月浩二さん(56)の愛称だ。離婚、交通事故、借金、相続など身近な市民の訴えに耳を傾ける。紹介状のない飛び込みの依頼にも気軽に応じる、地域密着型の弁護活動を続ける。

 そんな市民派の岩月さんにとって、環太平洋連携協定(TPP)は看過できない暴挙に映る。「TPPは市民の幸福と対立軸にある」。TPPが国家のありさまを変える深刻な問題と捉え、警鐘を鳴らし続ける。

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 TPPの危険性は2010年秋からブログ(日記風ホームページ)や弁護士同士のメーリングリスト(インターネットを通じ特定の話題に関心を持つ複数の人に電子メールを配信する仕組み)を通して再三、発信してきた。

 「日本独自の規制や法律が非関税障壁として問題視され、認められなくなる」「TPPは事実上の日本と米国の自由貿易協定(FTA)。あらゆる政策決定が法的に米国の監視下に置かれる」・・・・・・。

 岩月さんの数々の説得力ある主張は、愛知県弁護士会の司法問題対策委員会を動かした。5月、委員会の下にTPPに関する研究会を結成し、多角的な視点から情報を収集することに決定。座長には岩月さんが就任する。

 全国の弁護士会に先駆けた取り組みで、岩月さんは「TPP問題は市民生活、司法問題に直結する。だが、驚くほど知られていない。調査、研究し、危険性を明らかにする」と使命感を抱く。

 昨年12月、韓国の裁判官が米韓FTAは、韓国の司法主権を深刻に侵害するとして、日本の最高裁判所に当たる大法院下に、米韓FTAを検討するチームの設置を求める見解を公表。その際も岩月さんは原文を入手し、日本語仮訳を付けて全文をホームページ上で発表し、FTAによって韓国が受けた打撃を日本に置き換えて、危うさを発信した。

 最近では、岩月さんだけでなく、知的所有権や著作権、資格制度など幅広い観点からTPPに懸念を抱く弁護士も出始めた。「市場原理にはなじまない法律分野もTPPの対象になる」との声が相次ぎ、態度を明確にしていない日本弁護士連合会への不満も広がっている。

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 岩月さんが法律事務所を開設して今年で20年。これまでも「命の価値は平等だ」と訴えた知的障害者の遺族の代理人や、韓国の市民団体と連携して大企業を相手に起こした訴訟などを引き受け、一貫して弱者に寄り添ってきた。

 揺るがないのは、正義感だ。岩月さんは力を込める。「TPP参加によって得られた富は労働者に分配されず、金融資本に吸収される。日本独自の規制、法律はTPPで違法とされる。強い者だけが住みやすい日本にしては絶対にいけない」
(おわり)
(この企画は尾原浩子、鈴木祐子、原尻大志が担当しました)

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