【韓国 自由化路線の歪み②】『雇用 コスト削減の矢面に』|日本農業新聞5月4日

 観光客でにぎわうソウル市庁前の徳寿宮・大漢門。その横に4月5日、「労働者の涙と死を今こそ止めろ」との横断幕を掲げ、祭壇が設けられた。設営したのは韓国の中堅自動車メーカーの労働組合。3年前に一方的に解雇され、生活苦などで自殺した22人に祈りをささげ、失業者の悲惨な現状を市民に訴えるためだ。

 この会社は、元は国内資本の企業だったが中国資本が買収。労組によると、2008年の原油高騰で自動車の販売が低迷、経営不振を理由に09年、全社員のほぼ半分の2646人を解雇した。

・企業を優先

 韓国で、会社の都合で社員を一方的に解雇できるようになったのは1998年。通貨危機の克服のために同国は国際通貨基金(IMF)から資金援助を受ける際、国際競争力の強化などを理由に規制を緩和した。その一つが整理解雇法の導入だ。企業が統廃合したり経営不振だったりしたときには一方的に社員を解雇できると規定。労働者の権利より企業の利益を優先した。同法に基づく解雇の代表例が、この会社の大規模なリストラだ。

 自殺者のうち3人は今年亡くなった。22番目は30代の若者だった。友人の高東珉さん(38)は「解雇に対し彼は『会社の経営が回復するまで無給でいいので停職扱いにしてほしい』と訴えていた。自殺には非常に衝撃を受けた」と残念がる。

 政府も救済しなかったという。「ある地域で伝染病が発生し22人も死亡したら国家の非常事態だ。しかし政府は企業の利益ばかりに目を配り労働者の苦難には何の対策も取らなかった」。高さんは怒りをあらわにする。

 ソウルから南に車で1時間。京畿道平沢市にあるこの会社の本社の正門前にも昨年12月から祭壇が設けられている。参拝者を出迎える労働組合員の徐錫文さん(43)も解雇された社員の一人だ。

 徐さんも自殺を考えたことがある。職を探しても見つからない。生活苦と不安で家族にあたった。子どもは家出し、妻も優しい言葉を掛けてくれなくなったという。「米韓自由貿易協定(FTA)など自由化やグローバル化が美化されるが、労働者はコスト削減のために労働条件の切り下げを迫られるだけだ」。徐さんは語気を強めた。

・若者が失業

 韓国の失業者数は、90年代は、97年までは50万人前後だったが、整理解雇法が施行された98年に149万人に急増。2000年以降は落ち着いたものの80万人前後と97年以前より高い水準だ。特に青年の失業率が高く、11年の全体が3.4%だったのに対して15~29歳は7.5%に上る。

 韓国グローバル政治経済研究所の呉建昊研究室長は「国際化の進展に伴って企業利益を優先し、労働者の権利を侵害する不当な事件が多発している。福祉国家を目指す国としてあってはならない」と指摘。行き過ぎた自由化に警鐘を鳴らす。

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