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6th May 2012 from Twitlonger

 『例外なき関税撤廃』  鈴木宣弘 東京大学大学院教授  5月5日東京新聞



 「首都圏ではTPP(環太平洋連携協定)参加の利益が大きい」という人に考えてみてほしい。TPP問題を冷静に議論するには、「経済連携を進めて貿易拡大するためにはTPPしかない」わけではないことを見落としてはならない。目の前に、日中韓FTA(自由貿易協定)が5月にも、日EU(欧州連合)が6月にも、ASEAN(東南アジア諸国連合)+3(日中韓)が年内にも具体化しようとしている。

 経済連携の選択肢の中で、TPPは、例外なき関税撤廃と日本独自の国内制度運営の制約という過去最大の衝撃を与えるにも関わらず、得られる経済的利益は、内閣府の試算でも、ASEAN+3の半分、日中二国のFTAよりも小さい。つまり、TPPは失うものが最大で得るものが最小の「最悪」の選択肢なのである。

 TPPでアジアの成長を取り込める、日本の医療制度が崩されることはない、食品の安全性が緩められることはない、農業は強くなって輸出産業になる、製造業の輸出が伸びて景気が回復する、ISD(投資家対国家紛争処理)条項は、日本も他のFTAで入れているのだから問題ない、といった政府見解は残念ながら間違いである。

 既にNAFTA(北米自由貿易協定)において、米国がISD条項を「濫用」して、カナダやメキシコで人の命を守る制度や社会のセーフティーネットまで損害賠償や廃止に追い込まれている。韓国では「韓米FTAによって韓国の主権は韓国国民から米国企業に移ってしまった」と言われている。米国から「韓米FTAを強化するのがTPPだから参照してほしい」と言われたのに、日本政府は国民に韓米FTAを説明しないように心掛けた。

 TPP交渉の現状は、国内向けには「情報収集のための事前協議」といわれているが、実際には、「実質的な事前交渉」が進んでいる。TPPにいれてほしいなら「頭金」を払え、と米国から、自動車、郵政、牛海綿状脳症(BSE)など「言いがかり」のような懸案事項の解決を突きつけられている。これが折り合えば参加決定で、そのタイミングを模索している。国民に情報は出さないか、楽観的な観測だけを出して、気がついたら正式参加が決まった、という筋書きが進んでいる。国民生活に激変をもたらす重大な協定について、国民に知らせずに不意打ち的に決めるという政治手法は異常だ。

 直接投資、サービス分野での自由化の徹底によって、ベトナムに攻めていくのがTPPの利益だと経済界は主張する。だが、TPPは産業の「空洞化」を最も促進するFTAだから、日本人の雇用は減る。米国でも国民の69%がこれ以上雇用を失いたくないからTPPも他のFTAも反対と言っている。
 
 「製造業だからTPPに賛成」というのは、首都圏でも成り立たない。一部の大企業とその資金に依存する一部の政治家、人事交流等で企業と一体化している一部の官僚、スポンサー料でつながる一部のマスコミが一体となって、さらに規制緩和を徹底し、多数が雇用を失い、食料や医療も十分受けられなくなるような格差社会を拡大することが、これ以上許されるのだろうか。不安定で低い所得の弱者が続出し、規制緩和の行き過ぎが見直されつつあるときではないのか。TPPという極論ではなく、ASEAN+3、日EUなど、本当に均衡ある社会の発展につながる柔軟で互恵的な経済連携を具体化することが日本の使命ではないか。(終)    
                   



※鈴木宣弘教授の「TPPをめぐる議論の間違い」のリンクを参考までに載せておきます。

http://tpp.main.jp/home/wp-content/uploads/d58e252c5ea75e0feb1ae7c3d802d9f7.pdf

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