【韓国 自由化路線の歪み④】『行政 自治権さえ脅かされ』|日本農業新聞5月8日

 「米韓自由貿易協定(FTA)で、地方自治体の条例が制約されることを懸念している」。ソウル市法務部の徐景培・法務担当官は、米韓FTAの危険性を訴える。

 特に問題視するのが投資家・国家訴訟(ISD)条項だ。外国に投資した企業が進出先の国・自治体の政策や規制で不利益を受けたとして世界銀行傘下の仲裁機関・国際投資紛争解決センターに提訴できる。進出先で裁判はしない。このため公益上の必要性が考慮されず生命や環境、暮らしを守る政策・規制も制限されかねないと、韓国の米韓FTA反対派は「毒素条項」と呼ぶ。

 どの条例が米韓FTAに触れる恐れがあるかを把握するため同市は昨年12月、自治区を含む7138件の同市の条例を専門家らで調査。30件が抵触する可能性があることが分かった。例えば、学校給食では地元の食材を優先的に使うことを定めた条例などだ。

・下町で紛争

 米韓FTAによる紛争を先取りするような事案が発生した。標的になったのは、大規模なスーパーなどの営業時間を制限するソウル市江東区などの条例だ。一部を除き大型店には午前0時から8時までの営業を認めず、毎月第2・第4日曜日は義務的に休みと定めた。下町の伝統的な商店街を守るのが目的だ。今年3月26日に施行された。

 大型店は4月9日、「憲法が保障する営業の自由と平等、消費者の選択の権利を侵害する」とし、地方裁判所に当たるソウル行政法院に提訴した。自治体側は「条例は労働者の健康、大企業の無差別的な拡張で衰退する下町の商店街と小規模商業者の最小限の保護措置だ」と反論した。

 同行政法院は同月27日、大型店の訴えを退ける判決を下した。条例の公益性を認めたのだ。

 この条例をめぐる紛争は政府も注目していた。外交通商部の朴泰鎬通商交渉本部長は、この条例が「米韓FTAの問題になる可能性がある」との見方を示している。

・学給も標的

 米韓FTAで問題になりかねないのはソウル市の条例に限らない。日本の県に当たる京畿道は4月、小学校の給食では(1)遺伝子組み換え(GM)食品の使用を減らし最終的には使わないようにする(2)納入業者にはGM食品かどうかの表示を義務付ける――といった条例を議会に提出した。韓国内では、GM食品の輸出拡大を目指す米国政府や企業が、差別的だとして異議を唱える可能性が指摘されている。

 自治体の条例が制約を受けるとの懸念の広がりに、ソウル市の徐法務担当官は「米韓FTAは自治体の意見を反映していないからだ」と政府を批判。条例に詳しい慶熙大学の鄭昌洙教授は「ソウル市江東区のケースは、国内法で裁くことができる。しかし米国資本が参画した大型スーパーになると状況が変わる。(世銀傘下の仲裁機関による審議で)場合によっては、条例は無効だと判断される可能性がある」と指摘する。

(おわり)

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