『米国 自動車で条件 税制や安全基準緩和 非関税障壁の対応求める』|日本農業新聞5月16日

 米国政府が、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の条件として日本に対応を求める、自動車分野の非関税障壁を約10項目に特定したことが分った。自動車は牛肉や保険と並び、米側が日本の市場開放を狙う最大の関心分野。これまで明らかではなかった具体的な要求が判明したことで、今後、TPP交渉参加の是非をめぐる議論でも焦点となる可能性がある。
 
 米通商専門誌『インサイドUSトレード』の11日付電子版によると、米通商代表部(USTR)が特定した日本の自動車分野の非関税障壁は約10項目。「エンジンの大きさ(排気量)に基づく自動車税制」を筆頭に排出量・安全性の基準、認証制度、ディーラー制度を指摘したとみられる「流通販売網」など。いずれも米自動車業界が改善を長年求めてきたものだ。
 
 「軽」優遇を批判
 
 排気量に基づく自動車税制は、日本のTPP交渉参加に関する米政府の意見募集でも「(米国にはない)軽自動車規格の優遇」と、大手3社でつくる米自動車政策会議(AAPC)が批判する。自家用軽自動車の軽自動車税は標準で年間7200円。一方、米国車の主力となる大型車にかかる自動車税は排気量3~3.5㍑で5万8000円、3.5~4㍑は6万6500円と10倍近い。日本自動車工業会によると、日本市場に排気量2㍑以下の米国車は2車種しかなく、3㍑を超す車種が11と多い。
 
 日本の税制改正は毎年度1回で法改正も伴うため「TPPに慎重・反対の議員が多い中、税制改正の議決は困難」(慎重派議員)との見方がある。だが米国がTPPのモデルとする米韓自由貿易協定(FTA)では、日本同様に排気量に基づく韓国の自動車税制が改定され、排気量2㍑超の税額が引き下げられた。韓国は、排気量に基づく税制を新たに導入しないことを約束した。
 
 また米韓FTAは、韓国内での前年の販売が2万5000台以内の米メーカーに対し、米国の安全基準を満たせば韓国の規準を順守したものと認定する仕組みも導入。日本政府内には「安全基準の変更は受け入れられない」(外交筋)との考えもあるが、日本には類似の認証制度が既にある。外国車の輸入促進のため、1986年に米国の要請で導入した「輸入自動車特別取扱制度」だ。
 
 同制度は1車種(型式)につき年間2000台まで、簡易な手続きで認証が受けられる。例えば安全性や排ガスの基準審査は通常、実際の車両を使い日本側が試験するが、同制度では書面審査で済む。認証にかかる期間は通常の半分、コストも削減できるという。
 
 米誌『インサイドUSトレード』の11日付報道は「USTRは、海外の自動車製造業者が日本の排出量や安全基準を満たすのは困難であることにも不満がある」とした上で同制度を紹介。USTRが同制度の拡大や、より簡易な審査などを求める可能性が考えられる。同制度は、国土交通省の通達に基づくもので法改正が伴わず、国会議員による歯止めは利かない。
 
 ◆米国政府が問題視する日本の自動車分野での主な非関税障壁
 
 ・自動車の基準
 ・認証制度
 ・排気量で差を付ける自動車税制
 ・流通販売網の発達阻害
 ・燃料電池の新技術を使った試験車の認証
 ・排出量・安全基準
        (米誌報道などから作成)
 
 要求つり上げも
 
 オバマ米大統領は4月の日米首脳会談で、自動車、保険、牛肉の3分野を「国内の関心が高い」と名指しした。このうち保険分野で問題視していた「日本郵政のがん保険への参入」は同社の斎藤次郎社長が先送りを声明。牛肉は昨年12月、厚生労働省が食品安全委員会に輸入牛肉の月齢制限緩和を諮問している。
 
 米自動車業界は、米国市場での日本車の競争力やTPP交渉停滞への懸念から、日本の交渉参加には反対。だがこれを「要求水準をつり上げるポーズ」(農業団体幹部)と見る向きもある。自動車分野は既に日本の関税がゼロのため、米側の関心は非関税障壁の撤廃。日本政府はこれまで「米側からは具体的な要求がない」としていたが今後、米側から対応を迫られ、なし崩し的な交渉参加に傾く可能性がある。

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