『非定型BSEに備えよ 規制緩和の根拠にならず』農業情報研究所主宰 北林寿信氏|日本農業新聞5月17日

 4月、米国農務省(USDA)が牛海綿状脳症(BSE)4例目を確認したと発表した。患畜は起立が困難になり、安楽死させられ、レンダリング工場に運び込まれた。たまたまこの牛を検査し、感染が見つかったという。
 
 しかし、米国当局はいたって冷静だ。USDAのジョン・クリフィード獣医主任の第一声は、このBSEは前の3例と同様、感染飼料を食べることで感染する古典的BSEとは異なる非常にまれで、自然発生的な非定型BSEであって、この発見が「管理されたリスク」国としての米国の地位を揺るがすものではないということだった。
 
 だが、これは話半分に聞く必要がある。
 
 何よりも、非定型BSEは謎に包まれた病気である。その起源は誰も知らない。自然発生的なものか、何らかの遺伝的変異によるものか、古典的BSEが変形したものなのかも分らない。その感染性(病原性)もよく分かっていない。
 
 古典的BSEやその人間版クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)よりも感染性と病原性が強い上に、人の非常にまれなCJDに非常に似た症候や脳損傷のパターンを持つことを示唆する研究もある。種間の伝達性については、感染組織の脳への直接注入を通し、遺伝子組み換えでヒトやヒツジやウシに似せたマウスに移ることは知られているが、経口での伝達はまだ確認されていない。
 
 英国と世界のBSE研究対策をリードしてきた英国の伝達性海綿状脳症委員会(SEAC)の2007年の報告は、「このBSEは自然発生したものらしいが、他の可能性も排除できない」「経口伝達は確認できていないが、その可能性も排除できない」という。
 
 となると、どうしたら非定型BSEから人と動物を守ることができるのか。SEACは、感染牛はBSE特有の症候を示さないので発見は難しいが、健康な牛や死亡牛のアクティブサーベイランス(能動的調査監視)で発見は可能、人間の感染はもっと難しいが、徹底した飼料規制や特定部位の除去などの対策で動物と人間は守ることができるだろうという(引用者注:。)
 
 非定型BSEは、発生率は正確には分かっていないが、北欧、北米、日本など、古典的BSEの発生率が比較的低い国にも見られる。これは世界中に遍く存在すると見るべきだろう。これは、従前のBSE対策の見直しを迫るものである。
 
 米国では何よりも、検査が拡充されねばならない。年に3500万頭も食用に供されるのにたった4万頭しか検査されない現状では、感染牛が食物連鎖に入る可能性がある。というより、その可能性が高い。米国内では飼料規制の強化(養鶏場廃棄物の飼料利用禁止)を求める声も高まっている。
 
 ただ、これは米国だけの問題ではない。日本も含め、古典的BSEの減少・消滅に合わせて検査を縮小したり、飼料規制を緩和することなど、あってはならないだろう。

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