『GDP押し上げ効果 アジア経済連携の半分 TPP不利明らか』|日本農業新聞5月18日

 日本が環太平洋連携協定(TPP)に参加した場合の経済効果は、国内総生産(GDP)を実質的に0.54%押し上げるだけで、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした経済連携の半分ほどにとどまることが分かった。TPPではアジアの成長を十分に取り込めないことが、あらためて浮き彫りになった。経済効果の大部分は、国内農業が崩壊し、離農した農家全員が輸出増で潤う自動車産業などに転職することによるGDPの増加分とみられる。(千本木啓文)
 
 経済効果は、内閣府経済社会総合研究所の川崎研一氏が試算した。試算の方法は、世界貿易機関(WTO)などでも利用している「GTAPモデル」を採用した。
 
 TPPのGDP押し上げ効果は貿易自由化後に少しずつ高まり、約10年後で0.54%(年間2.7兆円)になる。これに対し、日中韓3カ国の自由貿易協定(FTA)は0.74%、ASEANに日中韓が加わった枠組み(ASEAN+3)では1.04%、さらにインド、オーストラリア、ニュージーランドが加わった枠組み(ASEAN+6)では1.10%、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)は1.36%と、TPPの2倍以上だった。
 
 GTAPモデルは、複数の自由貿易協定などの経済効果を同一条件の下で比較するのに適している。しかし、貿易自由化で失業した国民全員が他産業に雇用されることを前提にするため、協定ごとの経済効果の精度は高くないとも言われている。
 
 日本のGDP押し上げ効果は、関税撤廃で農産物価格が下落したために離農した農家が、自動車をはじめとした輸出産業などに転職することが前提。失業は想定していない。離農した農家の多くは農村から自動車工場などがある他地域に移ることになるが、農村の環境やコミュニティが維持できなくなることによる損失は考慮されていない。
 
 TPP交渉参加国のうち、日本が輸出増を見込めるのは主に米国だが、同国の関税は乗用車で2.5%などと既に低い。このため関税撤廃による経済効果は限定的だ。
 
 経済効果を試算したことがある専門家によると、TPPのGDP押し上げ効果の3分の2以上が農家の転職によるものだという。

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