『雇用拡大論“封じ込め” 両論併記で原案 経済連携で民主PT』|日本農業新聞5月25日

 民主党の経済連携プロジェクトチーム(PT、櫻井充座長)が24日にまとめた「経済連携の雇用への影響について」の原案。経済連携が雇用の維持・拡大に結び付くかは、協定の内容や地域、分野、企業の規模などによって一概に言えず、「一律に判断することは困難」と両論併記的な結論にとどまった。推進派は雇用拡大を環太平洋連携協定(TPP)参加論の柱としていただけに、「推進根拠を封じ込めた」(慎重派)格好だ。

 雇用拡大は、推進派にとっては最大の勝負どころ。このため、党PTの吉良州司事務局長を筆頭に、野田佳彦首相のグループのメンバーらがPT総会に大勢駆け付け、「国内の本社が赤字に陥っても、海外に進出した子会社の収益で国内雇用を守っている」などと述べ、雇用への効果を主張した。

 これに対して山田正彦前農相ら慎重派が総反論。山田前農相は「北米自由貿易協定(NAFTA)で米国は雇用を失い、賃金水準も下がった」と語り、経済連携が雇用の維持・拡大どころか雇用喪失の原因になる可能性を指摘。大河原雅子氏(参・東京)が農業など「分野ごとに検証」するよう求めた。

 山岡達丸氏(衆・比例北海道)は、国土が狭く人件費が高い日本は農林水産分野に限らず、企業にとっても「条件不利地域」の側面があることを説明し、経済連携による雇用拡大論に疑問を投げかけた。

 推進派、慎重派双方ががっぷり四つの論戦を展開する中、勝負の流れを決定づけたのが、経済連携と雇用は直接的な関連が薄く、企業の行動には制限をかけられないとの“中立論”だった。福島伸享氏(衆・茨城)は23日の党PT総会で、物品や人、資本の自由化がそれぞれ複雑に絡み合って雇用に影響するため「雇用が増えるとも減るともいえない」とした上で、自由化に伴う賃金水準の低下に懸念を示した。

 大谷啓氏(衆・大阪)は「雇用うんぬんは資本家の行動次第」と述べ、企業が海外進出をやめない限り、経済連携を進めても雇用喪失が止まらない可能性を指摘した。

 この意見に賛同の意を示したのが、政府で高いレベルの経済連携推進に取り組んできた福山哲郎前内閣官房副長官と、推進派の緒方林太郎氏(衆・福岡)。福山前内閣官房副長官は「福島氏、大谷氏の意見に近い。雇用を増やす可能性もあるし、減る可能性もある。協定を結んだすぐ後か、かなり後で見るのかによっても雇用への影響は異なる」と述べた。緒方氏は、経済連携を結んでも「企業の行動は制限できない」と語った。


 結果として、元政府、推進派、慎重派それぞれを代表する論客が「経済連携によって、雇用が増えるとも減るともいえない」との結論で一致した形で、これが党PTの取りまとめの方向を決めたとみられる。とはいえ、論戦はこれで終わりではない。TPP交渉参加に歯止めをかけられるのか。党PTが報告書を作成する6月20日ころまで激しい攻防が続く見通しだ。

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