『国民を愚弄するTPP 推進する者は責任を取れ 東京大学教授 鈴木宣弘氏』|日本農業新聞5月31日

 環太平洋連携協定(TPP)問題の正念場が続いている。4月30日のオバマ大統領との日米首脳会談で、野田佳彦首相が正式に日本のTPP参加の「決意」を伝える計画は「未遂」に終わったが、今も、次の表明機会を必死に探っている。今回、首相が決意表明を見送ったのは、国民の反対・懸念が強いからではなく、まだ、米国が日本からの「頭金」に納得していないからである。国民がいかに懸念を表明しようが、そんなものは無視することは最初から決め込んでいる。「外交交渉は内閣の専決事項だから勝手にやってよいのであって、文句があるなら批准の時に議論してくれ」が本音である。
 
 米国からは、TPPに入れてほしいなら「頭金」を払えと、自動車、郵政、牛海綿状脳症(BSE)などの懸案事項の解決を突きつけられている。自動車については、軽自動車の区分、車検、エコカー減税の廃止、米国車の日本市場におけるシェアの目標設定・達成を要求し、郵政民営化が逆行していると怒り、つい先日、カリフォルニアで発症した牛が見つかったのに、BSEについての輸入基準を緩めよと迫っている。まさに「言いがかり」である。
 
 懸案事項が解決されたと米国が納得しないと、米国政府は議会に日本の参加承認を求める通告ができない。通常なら、このような「いちゃもん」について国民的議論をすれば、「できないことはできない」と毅然と米国に回答せざるを得なくなり、TPPの正式参加はなくなる。しかし、日本政府は、水面下の条件提示によって、国民には曖昧にしたまま、何とか折り合いをつけ、参加承認にこぎ着けようと必死の交渉を行っている。だから、「情報収集のための事前協議」と繰り返しているが、それは全くのうそである。
 
 既に、BSEについては昨年10月に条件緩和を表明した。国民の命を守るための安全基準を米国への服従の証として差し出してしまったとは信じられない。かんぽ生命の「がん保険」への新規参入を当面見送ることで郵政についても譲歩した。現在の焦点の一つは自動車である。
 
 韓国は米韓自由貿易協定(FTA)の交渉開始の「頭金」として多くの譲歩をさせられた時点で勝負は決まってしまったと悔やみ、日本に「この段階で食い止めないと取り返しがつかなくなる」と警告している。しかも、米国は「日本の承認手続きと現9カ国による協定の策定は別々に進められる」と言っている。つまり、日本は、法外な「頭金」だけ払わされて、ただ、出来上がった協定を受け入れるだけなのである。
 
 しかも、こんな必死の譲歩をして参加承認を画策しながら、政府は「日本のTPP参加と自動車、郵政、BSE問題はなどの問題は何ら関係がない」と口裏を合わせて答える。誰にも分かるうそを平然と言い続け、ここまで国民を愚弄し、暴走する一部の官僚、一部の政治家は異常である。このまま責任をとらずに済むと思っているなら大間違いである。

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