『農業生産拡大を明記 食料安保担当相会合「カザン宣言」採択 APEC』|日本農業新聞6月2日

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)の第2回食料安全保障担当相会合は31日夜、開催地のロシア・カザンで「持続可能な農業生産の拡大」などを明記した「カザン宣言」を採択して終了した。「食料供給力の拡大」を盛り込んだ前回の「新潟宣言」の継続も確認した。日本政府は「食料の増産」を提起してきており、再び各国の支持を得たことを踏まえて、貿易自由化一辺倒ではなく農業生産の拡大を重視した食料安保への理解を、今後も各国に広める考えだ。(柘植昌行)

 会合には日本の鹿野道彦農相をはじめAPEC加盟21カ国・地域の食料安保担当相が出席した。

 カザン宣言は冒頭で「新潟宣言を再確認する」とした。前回が初開催となった同担当相会合は、2010年に新潟市で開き鹿野農相が議長を務めた。新潟宣言では「持続可能な農業の発展」を目標に掲げ、「食料供給力の拡大」の必要性などを打ち出した。

 APEC地域の食料安保を確保するためカザン宣言では「持続可能な農業生産の拡大が不可欠」と明記。その上で「地域的に統合された市場の発展が重要」と貿易円滑化を進める意向も示した。

 会合2日目の31日には、輸出国が貿易自由化の重視を訴える場面もあった。ニュージーランドのカーター農業相は「(宣言案では)貿易の重要性に関する部分が不十分だ」と述べた。しかし鹿野農相が「多様な農業の共存による安定的な食料増産が重要だ」と強調するなど、大半の国・地域は「新潟宣言」の継続を支持する方向で一致した。

 鹿野農相が重視した「農業分野での女性の役割発揮」は、農業生産の増大を進めるための施策として宣言に盛り込んだ。食料輸出国による輸出禁止・制限は「食料価格の乱高下を生じる」とし、問題視する立場を明確にした。

 APECは、20年を目標に自由で開かれた貿易・投資を実現させるためアジア太平洋自由貿易圏の具体化を推進。道筋として「ASEAN+3(東南アジア諸国連合と日中韓)」や環太平洋連携協定(TPP)などを示している。TPP交渉に参加しないことと同時に、同貿易圏に向けた協議で、「新潟宣言」「カザン宣言」を「持続可能な農業生産の拡大」の確保にどう生かすかも日本の課題といえそうだ。

・APEC宣言の概要

 APECの食料安全保障に関するカザン宣言の概要は次の通り。

【前文】
 ・新潟における第1回APEC食料安全保障担当大臣会合以降も、食料安全保障は重要性が高い課題
 ・食料安全保障政策パートナーシップ(PPFS)を歓迎
 ・食料安全保障に関する新潟宣言を再確認

【農業生産の増大と生産性の向上】 
 ・持続可能な農業生産の拡大は、APEC地域の食料安全保障のための不可欠な要素
 ・持続可能な農 業の成長のためには、投資の促進と革新的技術の採用を 通じた農業生 産性の向上が必要
 ・世界の環境条件の多様性と農業の 正の外部性を考慮した上で、個々の地域にとって最適な方法で、気候変動などの環 境リスクへの適切な対応、天然資源等の効率的利用の促進、女性を含む農業者の関与、自然災害への対応力と強靱(きょうじん)性の強化が必要
 ・持続可能な農業生産性向上や小規模農家の格差是正に向けたG20の取り組みを歓迎
 ・公共投資の役割に注目しつつ、民間投資の重要な役割を認識
 ・責任ある農業投資原則(PRAI)を評価
 ・農業分野の研究開発への長期的投資の大幅な増加が必要
 ・農家を含む全ての関係者による農業研究体制の向上が必要
 ・農家や地域共同体に革新的農業技術に関する知見等を提供する ことを目指した方策に関する議論を支持
 ・バイオテクノロジーが農業生産の増大と生産性の向上にとって有益
 ・災害防備と農業生産などの回復のための協議の強化が重要

【貿易円滑化と食料市場の発展】 
 ・食料安全保障は、公正で開かれた貿易に基づく場合に効果的
 ・WTOの枠組みの下での開放的でルールに基づく多角的な貿易システムの価値を再確認
 ・地域的に統合された市場の発達を促すことの決定的な重要性を強調
 ・食料輸出に係る禁輸その他の制限措置が食料価格の乱高下を生じうることを認識
 ・アジア太平洋食料安全保障情報プラットホーム(APIP)の日本の努力を評価
 ・農業市場情報システム(AMIS)の構築を含め、G20「食料価格乱高下と農業に関する行動計画」を歓迎
 ・AMISとAPIPの協力の機会についての検討に合意
 ・APEC財務大臣会合に、農業金融市場の透明性と規制についての議論を提案
 ・食料市場のインフラの発展と物流支援は市場の発展と統合に重要

【食品の安全性と品質の向上】 
 ・食品の安全性や品質に関する衛生および動植物衛生に関する国際的基準(SPS)や技術的規則の適用において、顕著な進展を果たしたことに留意し、この結果、食品供給チェーンを強化、安全で品質の高い食料貿易の発展に新たな機会を付与
 ・国際基準と国内規制の調和、検査能力の向上等が必要

【社会的弱者の食料アクセスの改善】 
 ・持続 的な社会的保護と社会的なセーフティーネットワ ークの強化などが必要
 ・災害の緩和、防備、対応および回復における地域的能力の強化について、協働して対処

【持続的な生態系に基づいた管理の確保ならびに違法・無報告・無規制漁業(IUU)および関連する貿易の阻止】
 
 ・海洋生態系、漁業および養殖業の持続的管理、ならびにIUU漁業およびそれに関連する貿易を阻止することが極めて重要
 ・2国間および多国間のパートナーシップ強化の重要性を認識
 ・IUU漁業阻止のため等の協力を推進する必要性を強調

【フォローアップ】 
 ・新潟宣言の実行の進捗(しんちょく)に留意し、新潟行動計画の実施のレビューの継続が重要
 ・レビュー結果の分析は、APIPを通じて各エコノミーに伝達

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