旅の恥は掻き捨て出来ぬどころか、ガツンと一発喰らいては緊縛の日常に自ら連行する。
 サウナの後は冷水浴。肩まで浸かり全身の力を抜き、首を縁のタオル上に置いて、全身が冷水に対して素直になる頃合いが、脳内ゼロになる機。私もだが温泉内では黙っておるので何系かは分からない。さきほどから某国の会話の内容からして、巨大重工業メーカーのお歴々が大きな声で会話を交していたのだったが、私に続いて冷水場に入ってきた。そのうちの一人が、
「おいおい500ハゲがいるぞ」
と部下らに宣い、部下はゲラゲラ幇間笑。
私はその場は打ち棄てておき、次の温湯場に。そこへまたぞろ、スティームを出た彼らが入ってきては、それでも私と対面であるから語感を工夫して、「あんなでは世間にでれないよな、わしだったら」だなんだと宣うのへ、
「500ハゲで悪かったですな。あなたがたは常識というもんがない」
と韓国語で大声一喝すれば、みなさんに見せてあげたがったが、血の気を失うという見事なまでの貌貌。重役と幇間もの併せて7名、弁解どころの話ぢぁなくして、且つその場を離れるわけにもいかず、俯いてただただ湯に浸かっているのみ。そんなものどもが、ぎこちなく次から次へ出ていき、これで平穏かとおもいきや、某国のこれまたバトミントンのラケットを拵えている企業なんだろうが、またまた私が冷水浴を同じにしておれば、入ってくるならいなや、
「円形脱毛ってみともないですよね」
 と日本からやってきた者が宣い、ちょっと間を置いて(現地駐在はその辺を知ってるんだろうから、同意して発声はできないんだろう、少し逡巡したあとに)
「いろんな人がいますから……」
 私は二度目でもあり、その場に
「なりたくてなったんじゃないですよ。今年はストレスの嵩じる年で。気分悪くされましたか?」
 と返したら、これも真っ青な貌の貌。副官も開いた口が塞がらず。
 旅の恥なぞは搔き捨てなぞは出来ぬ。

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