廿年も温泉に通っていますと、それはもう入浴のスタイルというのが出来上がるもので、これからは以前にも一とつか双つ位は投呟したかなとおもいます。
 温泉はその最初の入浴が肝心です。ぬるま湯に30分以上は黙って浸かります。体内を温めて内部から両腋、両耳から熱が放射される感じになるまで、じっくり浸かります。
 この、
「黙って」
 はわれら温泉会議派のみなさんならよっくお判りと希いますが、一言でも口を開いてしまいますと、これがいけません。リラクゼーションというのは言葉を発しないところで成るものです。ですから我が国の温泉では、私語は硬く禁じられている温泉が多いですね。そういうことが分からないアジアンはその都度係員によって厳しい注意を受けています。欧州なんかはそういう伝統あるようでして、子どもなんかでも喋りません、ちゃんとそういう躾ができている。といいましても、これはアッパー・クラスの嗜みがきちんと子どものうちから躾られているということになるでしょう。ベッカムさんのお子さんなども実に寡黙に、それが当たり前のように温泉に浸かっています。
 このぬるま湯に浸かること30分で、躰は温泉の躰になります。体内温度が高まり、そして大事なことですが、〝悪い汗〟がじわじわと滲んで参ります。そして一端シャワーを浴び(関西人はシャワーを浴びないで入浴する方が多いので困ります)、冷えに冷えた冷水に浸かりますが、温泉の躰になっておりますので、芯まで冷えることはありません。
 そこからスティーム、冷水、ドライ、冷水を繰り返して行ますが、その反復のなかにあって、汗は〝悪い汗〟の滲みから、〝好い汗〟。これは球粒の汗が噴出して来ます。ポロポロと雫のように落ちていきます。これらの汗を嘗めて見ればその違いはよく分かるものです。そして冷水の孰れか場面で、
「躰がワクワクする」
 を体感しますと、その入浴は私にとってですけれども、最高度の温泉の至福なのです。体調が思わしくなきとき、芳しくなきときはそれを感じることはないんですし、入浴が巧くいかないときは、体調万全でも得られることがない、最高度の至福。
 体内から炭酸の気泡が上ってきている……そんな感じでしょうか。と同時に四肢の先からそれらが放されている感じから、弛緩してゆく感じがこれはもう体感で分かります。穴という穴も弛緩して参ります。あとはこれを繰り返し、熱い温泉をこなして、躰を洗い、〆の掛け湯(各国の入浴術を学んで、この日本の掛け湯の持つ意味が大切なことがよく分かりまして、必ずこの掛け湯は4回行います)
 昨日のリハビリの後の温泉療法ではこの、久方ぶりに最高度の温泉の至福がやって来た入浴でありました。
 きょうは躰が非常に軽いものです。

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