必読:目から鱗「なぜアベノミクスによって輸出が増えないのか」 「円安」20%でも中国に競り負ける日本の「輸出」。中国製iPhoneを愛用する幸せな日本人(涙) 今や80年代後半の日本を上回る、全世界に占める中国の輸出額割合。
川島博之(東京大学大学院准教授)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41656
2014年09月08日(Mon)
 アベノミクスの目玉は大胆な金融緩和によって為替を円安に導くことであったが、そこまでは成功したとしてよい。円は1ドル80円付近から100円台にまで下落した。

 その結果、トヨタ自動車など海外での生産が多く、海外で得られた利益を日本に送金している企業は大幅に利益を伸ばすことができた。だがその一方で、石油など輸入品の価格は高くなった。海外で生産している企業が潤い、輸入品を消費する人々が損をした。

 もちろん、アベノミクスはこのようなことを目的にしたものではない。円安によって輸出が増えることを期待したのだ。輸出が増えれば国内メーカーが儲かり、そこで働く人の給与も上がる。彼らが消費を増やせば、その効果は飲食業などにも及ぶ。アベノミクスによって輸出が増え景気が良くなると考えたのだ。

 しかし、輸出は思うように伸びていない。円安になった最初の頃は、企業が生産を増やすには時間がかかる(Jカーブ効果)と説明されていたが、1年以上が経過しても輸出は増えていない。ドルベースで見ると、円安になった2013年の輸出額は2012年を下回っている。

 2014年4月の消費増税によって消費は大幅に落ち込んだ。それは夏頃までには回復すると言われていたが、夏が過ぎても落ち込んだままである。政府やエコノミストは、その原因をこの夏の天候不順に求めているが、真の原因は所得が増えないことにある。

 アベノミクスによって輸出が増加し、それによって長い間低迷していた企業業績が回復して、給与も増えるはずであった。しかし、輸出が増えないから業績は低迷したまま、給与も上がらない。それなのに輸入物価が上がり、それに消費増税が追い打ちをかけたのだから、消費が低迷することは当然だろう。

80年代後半の日本を上回る中国の輸出額割合

 なぜ、輸出は増えないのか。実は、それは日本人が最も認めたくない理由によって生じている。恐ろしいことが進行しているのだ。

 下の図を見ていただきたい。これは世界の総輸出額に日本と中国の輸出額が占める割合を示したものである。日本の輸出が占める割合は1960年代から80年代後半にかけて一貫して増加し、80年後半には8%を超えていた。世界で取引される貿易財の8%が日本から輸出されていたのだ。
衝撃の図表は以下のURLに掲載。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41656?page=2
輸出額が世界の輸出総額に占める割合(データ: 世界銀行)
中国10%・日本4%(2012年)
 この時代、日本はバブル景気に沸いた。“Japan as No.1”と言われて、のぼせ上がっていた時期でもある。しかし、バブル景気の崩壊とともに、日本の割合は徐々に低下していった。

 我々は、バブルが崩壊し経済が低迷する原因を、新たな時代に対応できない政治、金融、官僚システムにあると考えた。そして、改革しようとしたが、それは一向に進まなかった。「失われた20年」である。

 変化に柔軟に対応できない日本というシステムに問題があったことは確かであろう。しかし、我々はもう1つの怖い現象を見逃していた。中国の台頭である。

 図から明らかなように、日本がバブル崩壊に苦しむのを横目に、中国からの輸出額割合は急増している。それは日本の60年代を上回る勢いで、2004年には日本を追い抜いてしまった。その後、日本と中国の差は広がるばかりだ。

 中国は世界の工場になった。現在、中国の輸出額割合は“Japan as No.1”と呼ばれた80年代後半の日本をも上回る。中国では不動産バブルが問題になっているが、80年代後半の日本でもバブルが発生したことを考えると、バブルは輸出が元気な時期に発生するものなのだろう。

中国製品の品質は飛躍的に向上した

 日本の輸出が増えない理由は明らかだ。日本の輸出産業は中国に競り負けている。アベノミクスによって円を20%も安くしても、中国の輸出産業に打ち勝つことができない。

 賃金が安いために、中国の製品は日本製よりもずっと安い。昨今、中国人の賃金は急速に上昇しているものの、それでも日本人の4分の1から3分の1程度に留まる。

 少し前なら、中国の製品は安いが性能が悪く、よく壊れた。しかし、中国の技術だって日進月歩する。日本を目標に品質向上に努めている。その結果、中国から輸出される製品の品質は、感覚的には日本製の95%程度になっていると言われ、プロが見れば日本製に劣る部分が多いが、素人がその差を見抜くことは難しくなっている。

 また、昨今、技術革新が激しいために、1つの製品を長く使うことがなくなった。同じ携帯電話やパソコンを5年以上使う人は珍しいだろう。そうなれば、耐久性に優れていなくとも安い製品が好まれる。中国製をいまだに評価しない日本人は多いが、世界の人々、特に開発途上国の人々は中国製に満足するようになった。

 本稿に対して、個別の技術や製品名を出して、多くの反論があることは理解する。しかし、図に示したようにマクロな視点から見たときに、輸出において明らかに日本は中国に競り負けている。だから、アベノミクスによって円安にしても、輸出が伸びないのだ。

 輸出が増えないから、輸入物価が上昇した分だけ庶民の生活は苦しくなった。中国の輸出産業の躍進を念頭に置くことなく作り上げたアベノミクスは、みじめな失敗に終わろうとしている。

輸出立国は過去の遺物?

 日本人は中国の台頭という冷厳な事実を認めなければならない。もちろん、筆者もこれまでに何度か書いてきたように中国経済は現在バブルの様相を呈している。そして、不動産バブルは崩壊寸前にあり、より正確に言えば崩壊し始めたと言ってよい。

 しかし、バブルが崩壊したからと言って、中国からの輸出が減少することはないだろう。日本がバブル崩壊後、輸出主導で景気の拡大を図ったことを記憶している人も多いと思う。中国も同様の手段に出る可能性が高い。つまり、バブルが崩壊しても中国からの輸出は止まらない。

 日本はこの事実を認めた上で、今後の国家戦略を立てる必要がある。国家にとっても、企業にとっても、輸出立国は過去の遺物になってしまったのかもしれない。

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