★解散を巡る安倍総理と二階幹事長のずれに中曽根対金丸の暗闘を思い出すー(田中良紹氏)

8日の産経新聞朝刊は「安倍総理が年内の衆議院解散を見送る意向を固めた」との記事を掲載した。

理由は日ロ首脳会談とハワイ真珠湾訪問という外交日程を優先させたためで、

解散は来年秋以降にずれ込む公算が大きいとの見通しを示している。

その裏付けとして同紙は7日に自民党の二階幹事長が大阪市内で講演し

「年内解散はない」と発言したことを挙げている。

しかし興味深いのは二階幹事長が年明けの解散まで否定したわけではなく、

ただし「解散権を弄ぶこと」に不快感を表明したことである。

二階幹事長は講演後の質疑で衆議院解散について問われ、

「年内はありません。年が明けてどうなっていくか。これからまた新しい流れが出てくるか」と述べ、

そのうえで「今がチャンスだと耳元でささやく人もいないではない。

だが、長期政権をやりたいからと言って『今がチャンスだ』と解散を弄ぶものではない」と語ったという。

二階氏は幹事長就任後、公明党と共に解散風を吹かせた張本人である。

しかしその後一転して解散に慎重な姿勢を見せ、

その一方で総理周辺から流される解散戦略に口を差し挟んできた。

現在は総理周辺が「年明け解散」のアドバルーンを上げている。

その二階幹事長をフーテンは中曽根総理と暗闘を繰り広げた金丸幹事長とダブらせてみている。

中曽根総理が長期政権を実現するため衆参ダブル選挙を画策した時、

金丸幹事長は解散に賛成なのか反対なのか、およそ半年間にわたって周囲に分からせないようにした。

賛成と見える一方で反対にも見えるという政治術に周囲は煙に巻かれ続け、

フーテンはほとほと感心したものだ。

そうなると次第に金丸幹事長の判断が解散を左右すると思わせるようになる。

日本の政局とは関係のない金丸氏のトルコ訪問にまで

新聞社とテレビ局は記者を同行させざるを得なくなった。

外国での懇談で記者たちは「解散に賛成」という感触を得るが、

帰国後はまた「解散に反対」と思わせる発言が出てくる。

金丸幹事長は最後は解散に同調するのだが、

しかし選挙結果が歴史的な大勝で中曽根総理の思惑通りになると、

すぐさま幹事長辞任を表明して勝利に冷や水を浴びせ、

中曽根総理は1年間だけの任期延長を特例として認められる結果になった。

今年の年明けから安倍総理は中曽根総理を意識して衆参ダブル選挙を画策した。

これに対して当時の二階総務会長は

「ダブル選挙などやらなくとも自民党の党則を変えれば良い」と言って安倍総理にいわばエサを投げた。

ダブル選挙に反対の公明党はそれに救われ、

当初はダブルに強いこだわりを見せていた安倍総理もエサを与えられておとなしくなった。

こうして単独で参議院選挙が行われた後の党役員人事で二階氏は総務会長から念願の幹事長に上り詰める。

金丸氏も総務会長から幹事長に上り詰めた政治家である。

そして「政治の世代交代」を促すため政界を支配していた田中角栄氏と、

次いで中曽根総理との権力闘争に踏み出すのである。

二階氏が何を目指しているのかをフーテンはまだ伺い知ることができない。

総理を目指す年齢でないことは確かで、

とすれば金丸氏が最後には政権交代可能な政治を作るため政界再編に乗り出したように、

「一強他弱」の政治をバランスのとれた構造にすることを考える可能性はある。

そのためにはまず自身の力を強めることが必要だ。力を強めるには選挙に勝つことである。

その最初の試金石が10月に行われた新潟県知事選挙と2つの衆議院補欠選挙であった。

その選挙は二階幹事長だけでなく参議院選挙の結果を受けて誕生した民進党の蓮舫代表にとっても

試金石であった。

ところが民進党はいずれも敗北か敗北に等しい結果となる。

一方の二階幹事長は新潟県知事選挙には敗北したが、

小池東京都知事と手を組むことで2つの補欠選挙には勝利した。

ただし補欠選挙は自民党内の権力闘争を露呈させる。

東京10区では反小池勢力、福岡5区では麻生副総理との戦いが演じられた。

安倍総理を支える麻生副総理と菅官房長官、

そして二階幹事長の間には見えない火花が散っていて、複雑な人間模様となっている。

例えば菅官房長官が日本維新の会と安倍総理をつなぐ役割を果たしているのに対し

二階幹事長は批判的である。

また二階幹事長が小池東京都知事に融和路線を採るのに対し菅官房長官は冷淡である。

オリンピックのバレーボール会場を巡り、横浜アリーナ案を小池知事が提案したところ、

森喜朗東京五輪組織委会長は「横浜は迷惑している」と発言したが、

林横浜市長も黒岩神奈川県知事も神奈川で絶大な権勢を誇る菅官房長官の人脈である。

森発言を聞いてフーテンは菅官房長官の存在を感じた。

また麻生副総理と菅官房長官は選挙のたびに対立する候補を応援しバトルを繰り返している。

その複雑で微妙な力関係の上に安倍総理はいるが、

誰も安倍総理のために政治を行っているわけではない。

国民の支持率が高い間は支えるが、支持率が落ちれば支える理屈は消滅する。

二階幹事長が解散をやる目的は自らの権力を強めるためである。

そのためには勝つ選挙でなければならない。年齢を考えれば選挙は早い方が良い。

一方の安倍総理は先行きに対する不安が選挙を急がせる。

アベノミクスの効力が薄れないうち、支持率が高いうちにやって大量議席を獲得し、

自民党総裁任期延長を我がものにしたいのである。

フーテンは産経新聞の見通しのように二人とも来年の秋まで解散総選挙を見送るとは思わない。

勝てるとなれば早くに選挙を行う方が合理的である。

ただし外交成果が安倍総理の思い通りになることが大前提になる。

もう一つは新潟県知事選挙で見られた

共産、自由、社民の野党共闘が市民を巻き込むことができないうちにである。

自公にとって怖いのは共産、自由、社民と市民が結びつくことで、民進党は何も恐ろしくはない。

7日には安倍総理と民進党の蓮舫代表との初の党首討論が行われたが、

毎度安倍総理が繰り返す決まりきったアベノミクス礼賛論を蓮舫代表は切り崩すことができなかった。

カジノ法案を巡る国会審議の異常さを突くだけでは野党第一党の党首として全く物足らない。

二階幹事長から「もっと勉強して」と言われてしまうのも無理はない。

国民が何を求めているのかを探り当てなければ民進党は「勝てる野党」になれないことを

フーテンはまた感じてしまった。

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