ユリコとシンゾウのお話


衆議院選挙の長い一日は終わり、日付が変わり、午前1時を過ぎて、首相官邸の寝室に入ったシンゾウの携帯電話が鳴った。画面を見ると、「ユリコ」と表示されている。受信のボタンを押すと、聞きなれたユリコの声だった。
「圧勝、オ・メ・デ・ト」
「君は、パリに行っているんじゃなかったのか。」
「そうよ。今、夕方の6時。国際会議が終わって、一度ホテルに戻ったところ。それにしても、ひどいものよ。今のところ、うちは50にも届いてない。完敗だわ。」
「解散表明の会見に、希望の党結党の公表をぶつけられた時には、肝を冷やしたよ。完全にユリコにやられたと思った。」
「シンゾウから、政権を奪ってやれると思ったのにね。」
「『排除』って言葉がまずかったね。」
「だって、民進党の左巻きの連中なんかと一緒にやってられないもの。カンとかツジモトとか。言葉はきつかったけど。そんなの受け入れないのが当然でしょう。それより、ひどかったのはマサル。私が、『政権交代』ってぶち上げて党を立ち上げているのに、『政権交代は次の次』なんて間抜けなことを言ったじゃない。あれで、おかしくなっちゃった。」
「日曜の朝の報道番組での話だね。しかし、もし、都知事辞任となると、『都政投げ出し』だと批判されたんじゃないか。」
「政権交代に向けての勢いさえ止まらなければ、平気だったと思う。マスコミなんて、目の前の選挙が盛り上がった方がいいに決まってるじゃない。この際、都政のことは二の次ってことになったはずよ。」
「確かにねえ。それをやられると、こっちは大変だった。」
「本当に、政治センスがないオトコはどうしようもない。『我々としては是非、小池代表には選挙に出て頂きたい。でも、小池代表は都知事でもあるので、最終的には小池代表が決断されること』と言っておけば良かったのよ。」
「あそこで『次の次』って言ってくれたのは、本当に助かった。一気に風が変わったね。」
「『元検事』とか『特捜』とか言ってたから、もう少し使えるかと思ったけど、全然ダメ。結局、規約を作らせるぐらいしか使えなかったわ。」
「それにしても、セイジは、よく民進党の解党を決断したね。」
「幹事長にしようとしたシオリが不倫疑惑でやられて、出足を挫かれたところに、あなたが解散を仕掛けたので、焦ってたんでしょう。とにかく『安倍政権打倒』ってうわ言のように言ってた。」
「セイジは、希望する民進党議員は全員希望に合流できるって言ってたけど、ユリコはそんな約束はしてなかったんだね。」
「約束なんかするわけないでしょう。私が都知事やめて選挙に出るというのも、勝手に思い込んでいただけ。あの人、苦労人のはずなんだけど、その割に人がイイのよね。」
「メール問題の時から変わっていないってことか。」
「でもね。貴方がやったあの解散は、なかったと思う。私が動いてなかったら、どうなってたと思う?民進党がいくら追い込まれていても、それが、野党共闘って方向に行って、モリ・カケ問題と、解散の大義の問題で徹底的に攻められたら、自民党単独過半数割れになってたかもしれない。」
「でもね。仕方がなかった。あれは掛けだった。」
「今回の自公圧勝は、私のおかげでしょう。少しは恩に着なさいよ。」
「はい、はい。肝に銘じておきます。ところで、ユリコはこれからどうするんだ。」
「そこなのよ。都知事に専念なんて言っても。もう、目につくことはやっちゃったし、後は後始末だけ。そんなの面倒くさいだけよ。都民ファーストの内部もゴタゴタしてるし」
「しかし、希望の党も、当選したのは殆ど民進党系だろう。代表はこのまま続けるのか?」
「代表は絶対に譲らない。だって、私、希望の党の創業者だもん。あの党は、私のものよ。グズグズ言っている奴らがいるけど、規約で、3年間、私は絶対に代表を辞めさせられないように作ってある。マサルの唯一の成果よ。」
「そうか。希望の党は、これからも『小池党』と考えていいんだね。」
「当たり前じゃない。シンゾウには、憲法改正でも何でも、協力する。」
「そうか。それを聞いて安心した。ユリコは『安倍政権打倒』って言ってたから、心配してたんだ」
「それは、マスコミが勝手に言ってること。私は、『打倒』なんて言ってないわ。選挙演説では『安倍一強に緊張感を持たせる』って言ってた。いい言葉でしょ?あなたも、選挙結果を受けて、『緊張感を持って職務に臨む』って言っているじゃない。それを、先に言ってあげてただけ。言ってみれば『時間差デュエット』ってことね」
「そうか。それは心強いね。」
「私が貴方の味方だってことは忘れないでね。だから、もし、私が自民党に帰りたいって言ったら、頼むわよ。」
「わかった。わかった。」



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