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9th Mar 2019 from TwitLonger

刑法ノート⑨/ 違法性 (22ヶ)


略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。orまたは,∴なので,⇒ならば,∵なぜならば
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◇違法性阻却の実質的基準
[・社会的相当性という観念は不明瞭であり、違法性阻却の実質的基準たりえないと解する。
 結果無価値論の立場からは、#法益の欠如 と #法益衡量 が、違法性阻却の実質的基準・原理となる。
 前者の典型例は、被害者が法益侵害惹起に対して瑕疵のない意思で同意している場合であり、被害者の同意と呼ばれる。
 後者は、法益の要保護性は否定できないが、そのような法益侵害を惹起することが、別の法益を保護するために必要であり、保護される法益(回避される法益侵害)と侵害される法益(惹起される法益侵害)とを衡量した結果、保護された法益(回避される法益侵害)が侵害された法益侵害(惹起された法益侵害)と同等か、それよりも優越している場合である(同等利益・優越的利益の保護)。具体的な要件として、#補充性の要件 と #害の衡量 をみたす必要がある。]

刑法142/ 928/ #法益の欠如_法益衡量が,違法性阻却の実質的基準・原理。被害者が法益侵害惹起に対し瑕疵なき意思で同意している場合(#被害者の同意)。法益の要保護性あるが,その侵害惹起が,別法益保護のため必要で,侵害法益(惹起される法益侵害)と保護法益(回避される法益侵害)を衡量し,#同等か_後者が優越する場合。
[山口『刑法総論』3版110頁参照]

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〔侵害の急迫性〕
◇侵害を予期し,積極的加害意思で侵害に臨んんだ場合
刑法47/ 総論27/ 363/ 急迫性要件は,予期された侵害の回避義務を課す趣旨ではないから、ほとんど確実に侵害が予期されたとしても、ただちに侵害の急迫性は失われない。しかし、単に予期された侵害を避けなかったにとどまらず、#その機会を利用し積極的に相手に加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、急迫性要件を欠く。
[最判昭52・7・21刑集31-4-747(『判例プラクティス刑法Ⅰ』〔188〕204頁)参照]

◇侵害の急迫性要件
刑法136/ 875/ 侵害の急迫性要件(刑法36条1項)は,#予期された侵害を避けるべき義務を課す趣旨ではないから,当然またはほとんど確実に侵害が予期されても,ただちに侵害の急迫性は失われない。しかし,#その機会を利用し積極的に相手に対し加害行為をする意思で侵害に臨んだときは,もはや侵害の急迫性要件を充たさない。
[最決昭52・7・21刑集31-4-747『判例プラクティス 刑法Ⅰ』〔188〕参照。
/ 侵害の急迫性要件(刑法36条1項)は,予期された侵害を避けるべき義務を課す趣旨でないから,当然orほとんど確実に侵害が予期されても,ただちに侵害の急迫性失われない。しかし,単に侵害を避けなかっただけでなく,#その機会を利用し積極的に相手に加害行為をする意思で臨んだときは,侵害急迫性要件不充足。]

◇侵害予期時点の積極的加害意思
刑法118/ 854/ 予期だけで侵害の急迫性は失われないが,#侵害を予期した上で_積極的加害意思で侵害に臨んだ場合_急迫性は認められない。判例上,防衛の意思要件が緩やかに解され,防衛の意思なしとして正当防衛が否定される事例は限られるが,侵害予期時点に遡り,積極的加害意思で侵害に臨んだことを根拠に正当防衛否定。
[山口『刑法総論』3版125頁(最決昭52・7・21刑集31-4-747)参照]

◇緊急行為としての性格が失われる場合
刑法48/ 総論28/ 364/ 予期した侵害を回避・退避しないだけでなく、その機会を利用し積極的に相手に加害行為をするため、侵害に臨み、相手に攻撃を加える場合、実質は単に相手を侵害する場合と同視可。その反撃行為には、#緊急行為性(侵害からの保護を求める余裕がない状況での行為)がないので、侵害の急迫性が失われる。
[山口『刑法総論』3版126頁(最判平52・7・21刑集31-4-747)参照]

◇緊急行為としての性格が失われる場合
刑法総論32/ 418/ 侵害の予期だけでは侵害の急迫性は失われないが,その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思(#積極的加害意思)で侵害に臨んだ場合,予期された侵害に対する反撃行為に,侵害からの保護を求める余裕がない状況でなされる行為(緊急行為)としての性格が失われる(侵害の急迫性要件みたさない)。
[山口『刑法総論』3版126頁(最判平52・7・21刑集31-4-747)参照]]

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◇けんか抗争に備える目的で刃物を護身用に携帯する行為は,正当防衛となるか
刑法46/ 総論26/ 362/ Xが自動車のダッシュボード内に本件刃物を入れておいたことは不法な刃物の携帯(#侵害発生以前からの不法な携帯)にあたり、それを護身用にポケットに移し替え携帯したとしても、不法な刃物の携帯の一部と評価できるので、検察官が本件刃物を現認した時点でのXの携帯行為には、違法性阻却余地なし。
[『判例プラクティス刑法Ⅰ』205頁〔189〕(最判平17・11・8刑集59-9-1449),銃砲刀剣類所持等取締法2条2項,3条1項等,参照]

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◇急迫不正の侵害終了の判断要素
刑法51/ 総論31/ 367/ Aの暴行脅迫とXの刺突行為の時間的接着。Aの暴行脅迫意思放棄を思わせる行動も認められない。Xは64歳、身長168cm、体重67kgなのに対し、Aは44歳、身長178cm、体重87kgのがっしりとした体格、脱出にはAの横を通るしかない等を考え合わせると、#侵害の急迫性は失われない。
[大阪高判平16・7・23高刑速(平16)154頁(『判例プラクティス刑法Ⅰ』〔196〕212頁)参照]

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最判平29・4・26刑集71-4-275(29重判〔刑法2〕) ,正当防衛ないし過剰防衛の成否
1.問題の所在
 甲は,Aからの侵害を予期しながら,Aと対峙し,ハンマーでの侵害行為に対しそれを防ぎながら,用意していた包丁で威嚇をすることもなく,殺意をもってAの左側胸部を一突きして殺害しており,急迫性(刑法36条1項2項)が認められないのではないか問題となる。
2.法的判断枠組み
 侵害の急迫性の要件については,侵害を予期していたからといって,直ちに急迫性が失われるわけではない。被告人の対抗行為に先行する事情を含め,行為全般の状況に照らして検討すべきである。事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容、予期の程度、侵害回避の容易性、侵害場所に出向く必要性、侵害場所にとどまる相当性、対抗行為の準備の状況(特に、凶器の準備の有無やその性状等)、予期した侵害と実際の侵害行為との異同、行為者が侵害に臨んだ状況、その際の意思内容等を考慮し、行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対し加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、緊急情況下での急迫不正な侵害を排除するために私人による対抗行為を例外的に許容した、刑法36条の趣旨に照らし許容できない場合、侵害の急迫性要件をみたさないといえる。
3.事実の拾い出し・評価
 甲は、Aの呼び出しに応じて現場に赴けば、Aから凶器を用いるなどの暴行を加えられることを十分予期しながら、呼び出しに応じず自宅にとどまり、警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず、包丁を準備し、現場に赴き、Aがハンマーで攻撃してくるや、包丁を示すなどの威嚇的行動をとることなくAに近づき、Aの左側胸部を強く刺突したものと認められ、このような行為は、刑法36条の趣旨に照らし許容されるとは認められず、侵害の急迫性の要件をみたさない。
4.結論
 したがって、本件につき正当防衛および過剰防衛は成立しない。
以上

◇侵害を予期し対抗行為に及んだ場合の急迫性
刑法86/ 784/ #侵害を予期していたからといって_直ちに急迫性は失われれない。行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対し加害行為をする意思で侵害に臨んだなど,#緊急情況下での不正な侵害を排除するために私人による対抗行為を例外的に許容した_刑法36条の趣旨に照らし許容できない場合_急迫性要件みたさない。
[『平成29年度重要判例解説』147頁(最決平29・4・26刑集71-4-275)参照]

◇急迫性要件の考慮要素
刑法87/ 785/ 侵害の急迫性要件の考慮要素:先行事情,#行為全般の状況に照らし,従前の関係,予期された侵害内容,予期の程度,#侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,そこにとどまる相当性,対抗行為の準備状況(#凶器の準備・性状等),予期侵害と実際の侵害行為の異同,#行為者が侵害に臨んだ状況,その際の意思内容等。
[『平成29年度重要判例解説』〔刑法2〕(最決平29・4・26刑集71-4-275,最判昭46・11・16刑集25-8-996,最決昭52・7・21刑集31-4-747)参照]

◇反撃行為の予備段階において積極的加害意思が認められた事例
刑法88/ 786/ 甲は,呼び出しに応じれば,凶器を用い暴行されるのを十分予期しながら,自宅に居て警察の援助を受けることが容易だったにもかかわらず,包丁を携え,現場に赴き,ハンマーで攻撃されるや,#包丁で威嚇することもなくAに近づき_左側胸部を強く刺突。右行為は,刑法36条の趣旨に照らし許容不可,侵害急迫性なし。
[『平成29年度重要判例解説』〔刑法2〕(最決平29・4・26刑集71-4-275)参照]

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〔「防衛するための」の行為〕
◇自己の権利の防衛のため
刑法141/ 880/ 容易に逃避可能だったこと,一室を隔てたところにいたXの子らに救援を求めなかったこと,被害者Aは泥酔状態,他方AとXはかねて感情的に対立していた諸事情からすれば,#Xの所為はAの急迫不正の侵害に対する自己の権利防衛のためにしたものでなく,むしろ憤激の余咄嗟に殺害を決意したもの。⇒正当防衛否定。
[最決昭33・2・24刑集12-2-297『判例プラクティス 刑法Ⅰ』〔203〕参照]

◇防衛の意思
刑法判例27/ 判例は,防衛の意思必要説だが,内容不明確なので,相手方に憤激や攻撃意思ある場合の防衛意思の有無,問題? 最高裁は,憤激や逆上に基づく場合も,防衛意思に欠けるわけではないとし,#攻撃的意思と防衛意思が併存しうること_ただし_防衛に名を借り侵害者に積極的に攻撃を加える行為は防衛意思を欠くとする。
[『判例プラクティス 刑法Ⅰ』198頁(大判昭11・12・7刑集15-1561,最判昭46・11・16,最判昭50・11・28)参照]

◇判例における防衛の意思の要件について
刑法119/ 855/ 防衛の意思は,憤激・逆上しても否定されず,攻撃の意思とも併存しうるが,#積極的加害行為に現れた純然たる攻撃意思により否定される。防衛の動機が多少なりともあれば防衛意思は認められるが,攻撃の動機・意思が他の動機を圧倒しもっぱら攻撃意思による,#意図的な過剰行為(積極的加害行為)あれば,否定。
[山口『刑法総論』3版129頁-130頁(最判昭50・11・28刑集29-10-983)参照]

◇防衛の意思必要説(判例)と,不要説
刑法121/ 857/ 判例は,防衛の意思を要求する。正当防衛にあたる事実の認識(心理状態)と考えられるが,憤激・逆上していても,攻撃意思が併存していても,認められる。/しかし,#違法性は客観的にきまるべきなので_防衛意思を要求すべきでない。相手方の侵害を知らず攻撃しても,正当防衛成立(偶然防衛,情況により未遂犯)。
[平野『刑法概説』54頁,山口『刑法総論』3版131,130頁,参照。
 防衛の意思につき,大塚仁教授は,「急迫不正の侵害を意識しつつ,これを避けようとする単純な心理状態」とされ,それは「防衛の認識,対応の意識」(曽根教授)とも言い換えられるもの,さらに,正当防衛にあたる事実の認識,ないし,正当防衛状況その他正当防衛にあたる事実の認識(単なる事実の認識?)とも言い換えられるのであろう。判例は,そういった単なる認識以上の意義を,防衛の意思に与え,憤激・逆上している場合や,攻撃の意思が併存する場合も,そのような正当防衛にあたる事実の認識(単純な心理状態)である防衛の意思は否定されない(←これが単なる認識以上の意義?),としているのであろう(山口同書同頁参照)。
 両説の違いは,偶然防衛を正当防衛と認めるかどうかだけのようである。]

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〇自招侵害,および,喧嘩・闘争状況における正当防衛の可否
刑法判例28/ 自招侵害は,行為者が,#自ら侵害を招き_これに対し防衛行為を行ったという一連の事実経過全体を対象に,正当防衛要件検討。/喧嘩・闘争状況下の正当防衛の可否も同様。喧嘩両成敗思想から,正当防衛の余地なしとの古い判例もあるが,最高裁は,全体的に考察し,喧嘩・闘争状況下の正当防衛成立可能性を肯定。
[『判例プラクティス 刑法Ⅰ』199頁(最判昭32・1・22)参照]

◇自招侵害
[・判例によれば、①不正な暴行によって侵害を招致したこと、②侵害は暴行の直後に近接した場所で行われた一連、一体の事態であること、③侵害がそれを招致した暴行の程度を大きく超えないという場合に、正当防衛ができる状況ではなく、正当防衛の成立が否定される。
 ただし、侵害を招致した行為が暴行ではなく、言葉による挑発の場合、また、侵害の程度が被告人による暴行の程度を大きく越える場合には、正当防衛の余地がある。
 このような場合に正当防衛の成立が否定される理由・根拠は、当初の侵害を招致する行為の段階で、不法な相互闘争行為が始まったと評価し、侵害に対する反撃行為について緊急行為性が否定されるものと解する。]

刑法総論33/ 419/ ①不正な暴行による侵害招致,②侵害は暴行直後に近接場所で行われた一連一体の事態,③侵害がそれを招致した暴行の程度を大きく超えない場合,正当防衛ができる状況(#緊急行為性)なく,正当防衛否定。ただし,暴行でなく,言葉による挑発の場合や,侵害程度が被告人による暴行の程度を大きく越える場合除く。
[山口『刑法総論』3版127頁、128頁(最決平20・5・20刑集62-6-1786)参照]

◇喧嘩・闘争状況における正当防衛の可否
刑法49/ 総論29/ 365/ #喧嘩闘争は全般的に観察することを要し、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様により事を判断してはならないが、#喧嘩闘争においてもなお正当防衛成立の余地がある。
原審は、闘争全般を観察しなかったか、喧嘩闘争には常に全く正当防衛の観念を容れる余地がないとの前提に立ったかの点で、不当。
[最判昭32・1・22刑集11-1-31(『判例プラクティス刑法Ⅰ』〔191〕207頁)参照]

〔闘争状況における正当防衛の成否〕
◇侵害の急迫性要件と防衛の意思要件の緩和
刑法50/ 総論30/ 366/ ①侵害の予期があっても侵害の急迫性は直ちに失われないが、#積極的加害意思ある場合は急迫性が失われ、正当防衛は否定される。②憤激・逆上し、攻撃の意思が存在しても、防衛の意思は必ずしも否定されないが、積極的加害行為が認められ、#もっぱら攻撃意思で反撃が行われる場合、それは否定される。
[山口『刑法総論』3版134頁参照]

◇侵害の急迫性要件と防衛の意思要件の緩和
刑法120/ 856/ 侵害予期があっても侵害の急迫性は直ちに失われないが,#積極的加害意思ある場合(反撃行為の予備段階),急迫性失われる。憤激・逆上しても,攻撃の意思が併存しても,防衛の意思は必ずしも否定されないが,#積極的加害行為が認められもっぱら攻撃意思で反撃したと考えられる場合(反撃行為の実行段階),否定。
[山口『刑法総論』3版134頁(最決昭52・7・21刑集31-4-747,最判昭50・11・28刑集29-10-983)参照]

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◇正当化される防衛行為の範囲如何
刑法総論122/ 858/ 正当防衛では,被侵害法益が侵害者法益に対し質的に優越,⇒緊急避難の法益衡量原理と異なり,より侵害性の小さい防衛行為不存在という補充性を要しない。だからといって,防衛のためならいかなる行為でも正当化されるわけではない(∵過剰防衛)。正当化される防衛行為の範囲(#防衛手段としての相当性)如何?
[山口『刑法総論』3版]134頁参照]

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☆正当防衛・過剰防衛と共同正犯
刑法問題3/ 刑法R29①参照:Aが甲顔面を右手拳骨で殴ろうとしたのを,甲はかわし,#防御のため乙に加勢を頼み_乙同意。甲乙は正面からAに体当たりし路上に仰向けに倒し,しばらく押さえ付け落ち着くのを待ったが,まだ暴れるため,乙は未必の殺意なく,重さ800gの丸石でA顔面を力を込め殴った。A失神,鼻骨骨折。乙の罪責?
[平成29年度司法試験論文式試験問題,採点実感,参照]

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