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18th Mar 2019 from TwitLonger

会社法ノート④/ 役員等の義務と責任 (44ヶ)


略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。orまたは,∴なので,⇒ならば,∵なぜならば。
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◇注意義務と忠実義務
[・役員(会社法329条1項かっこ書)・会計監査人・執行役は、その職務を、善良な管理者の注意をもって行わなければならない(注意義務、善管注意義務、善管義務。330条・402条3項、民法644条)。これに加えて、取締役と執行役は、法令・定款ならびに株主総会決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を行わなければならない(忠実義務。355条・419条2項)。判例によれば、忠実義務は、善管義務を敷衍して一層明確にしたにとどまり、注意義務とは別個の高度な義務ではない。
 両者は別個の異質の義務とまではいえないが、会社と取締役等の利益が衝突する場面で取締役等が自己の利益を図ってはならないという義務を忠実義務(duty of loyalty)、職務を行うにあたって注意を尽くすべき義務である注意義務(duty of care)という、用語上の使い分け自体はなされている。]

会社法110,111/ 667,668/ 役員・会計監査人・執行役は,善良な管理者の注意をもって(#注意義務,善管注意義務,会社法330条,402条3項,民法644条),取締役と執行役は,法令・定款・株主総会決議を遵守し,会社のため忠実に(#忠実義務,355条,419条2項),職務を行わねばならない。判例によれば,#後者は前者を敷衍して一層明確にしたもの。
[『LEGAL QUEST会社法』3版217頁(最大判昭45・6・24民集24-6-625)参照]

/ 職務を行うにあたって注意を尽くすべき場合を注意義務(duty of care),#会社と取締役等の利益衝突場面で取締役等が自己の利益を図ってはならない場合を忠実義務(duty of loyalty)と,用語上使い分けはできるが,#忠実義務は_善管義務を敷衍して一層明確にしたにとどまり,別個の高度な異質の義務ではない。
[『LEGAL QUEST会社法』3版217頁参照]

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◇利益相反取引
商法22/ 会社法22/ 167/ 取締役が自己または第三者のために会社と取引をしようとするときは(直接取引)、当該取締役は、重要な事実を開示し、取締役会ないし株主総会の承認を受けなければならない(#会社法356条1項2号・365条1項参照)。当該取締役は、特別利害関係があるため、議決に加われない(369条2項)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版219,221頁参照]

商法23/ 会社法23/ 168/ 会社が取締役以外の者と、会社と取締役の利益が相反する取引をしようとするときも(間接取引)、取締役会ないし株主総会の承認を要する(#会社法356条1項3号・365条1項)。取締役の債務を保証し債務不履行となれば債権者が会社に請求するのであり、取締役への貸付と同様といえるからである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版220頁参照]

商法47/ 会社法47/ 204/ #会社法356条1項3号に例示される債務保証のほか、債務引受、担保の提供も規制される。その他、会社と第三者の間の取引で、外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生じる形の行為が同条項3号の規制対象になると解される。相対的無効説をとっても、取引安全が十分に確保されないからである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版220頁参照]

商法24/ 会社法24/ 169/ #会社法356条1項3号は、会社と第三者の間の間接取引で外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生じる形の行為も規制する。
ただし、同条項2号3号は、取締役が裁量行使し会社の利益を害するおそれなき行為は規制しない。無担保での借受け、債務の履行、普通取引約款による取引などである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版220,221頁参照]

◇承認を受けない取引の効力
商法25/ 会社法25/ 170/ 承認なき利益相反取引(#会社法356条1項2号3号)につき、直接取引の相手方取締役に対し、会社は、取引無効を主張できる。間接取引の相手方や、会社振出の約束手形等の転得者に対し、取引安全のため、その者の悪意の主張立証を要する。会社利益保護制度なので、相手方からの無効主張はできない。
承認のない利益相反取引の直接取引(#会社法356条1項2号)の相手方に,会社は取引の無効主張可。間接取引(3号)の相手方,#会社振出の約束手形等の譲受人に対しては,取引安全のため,#相対的無効と解すべき。会社に,第三者の悪意(重過失)等の主張立証責任あり。#会社利益保護のため_相手方から無効主張不可。
[『LEGAL QUEST会社法』3版222頁参照。2018/7/5修正]

商法136/ 955/ 利益相反取引(会社法356条1項2号3号)に必要な承認を受けない直接取引の相手方に対し,会社は,取引無効主張可。/間接取引の相手方や取締役を受取人として振り出した約束手形の譲受人につき,取引安全のため,#会社は_その取引が利益相反取引に該当し_承認欠缺につき相手方悪意を主張立証要(相対的無効説)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版222頁(最大判昭43・12・25民集22-13-3511,最大判昭46・10・13民集25-7-900)参照]

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◇競業取引
商法26/ 会社法26/ 171/ 取締役が会社事業と競業する事業を行うことは、会社の利益を害する危険が大きい。取締役は会社のノウハウや顧客を奪ったり、自身の職務を手抜きするおそれもある。取締役が別の会社を代表して行う場合も同様である。会社の利益を守るため、競業取引の規制がなされている(#会社法356条1項1号)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版223頁,『合格答案を即効で書けるようになる本 ②民事系』143頁,参照]

商法27/ 会社法27/ 172/ #会社法356条1項1号 の「ために」とは、同2号と異なり、取引の実質的な利益帰属者(の計算で)を示すと解する。「会社の事業の部類に属する取引」とは、会社の現在の事業、および、進出のために準備を進めている事業、で行われる取引と目的物、市場(地域・流通段階等)が競業する取引をいう。
[『LEGAL QUEST会社法』3版223,224頁,『合格答案を即効で書けるようになる本 ②民事系』143頁,参照]

☆取締役の行為
会社法問題2/ 商法R15①:①㈱A代表取締役Bが㈱Cの監査役兼任:A社がC社のD銀行からの借入10億円保証,②㈱A取締役Eが㈱Fの発行済株式総数70%保有:A社がF社のG銀行からの借入1000万円保証,③ホテル経営㈱A取締役Hが,ホテル経営・不動産事業を行う㈱Iの代表取締役として不動産事業取引のみ担当;#A社取締役会決議必要か?
[平成14年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題と出題趣旨,参照。多額の借財(会社法362条4項2号)。利益相反取引・競業取引(356条1項1号3号・365条)。]

☆競業取引,任務懈怠責任など
会社法問題4/ 商法R27②Q1:㈱甲:A代表取締役,B,C取締役,発行済株式総数8万株,A4万株,B1万株保有,取締役会設置会社。洋菓子部門B担当,首都圏が商圏。B:関西地方の洋菓子製造販売業社㈱乙の発行済株式90%取得,顧問として陣頭指揮,甲社洋菓子工場長Eを乙社に引き抜き⇒甲社売上げに損害。Bの甲社に対する損害賠償責任?
[平成27年司法試験問題と出題趣旨,民事系第2問設問1参照。乙社事業執行につき,競業取引(会社法356条1項1号・365条)による損害賠償責任(423条1項。2項による損害の推定。因果関係。その他の損害(関西進出のための市場調査費)),E引抜きによる損害の賠償責任(423条,忠実義務(355条)違反)。]

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◇競業取引と取締役の責任
商法137/ 956/ 承認を受けない競業取引の場合(会社法356条1項1号),利益相反取引と異なり,無効ではない。∵競業取引は会社以外の者と取締役間の取引で,それが無効になっても,会社救済にならない。#競業取引により会社に損害が生じれば_承認の有無にかかわらず_関係取締役は_会社に対し損害賠償責任を負い得る(423条)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版225頁参照]

 ◇利益相反取引・競業取引
商法55/ 会社法55/ 222/ 利益相反取引・競業取引の承認の有無に関わらず、損害があれば、取締役等は任務懈怠責任(#会社法423条1項)を負う。
利益相反する取締役等、決議に賛成した取締役等は、任務懈怠が推定される(同条3項。なお4項)。
承認なき競業取引の損害額は、取締役等の得た利益額と推定される(2項)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版238頁参照]
 
商法28/ 会社法28/ 173/ 利益相反取引・競業取引に承認を受けていても、会社に損害があれば、任務懈怠責任(#会社法423条1項)を負う。
自己のための利益相反取引は無過失責任である(428条1項)。
事前承認なき競業取引(356条1項1号)の場合の損害額は、取締役等の得た利益額と推定される(423条2項)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版238頁参照。
1. 私の理解の過程を残せば、上記記述に圧縮して初めて、条文の細かな違いがわかった。
2. それは、428条1項と、423条2項との違いである。
前者は、自己のための利益相反取引についての規定であり、356条1項の規定に違反したかどうかは問われていない。
これに対して、後者の競業取引についての規定に関しては、「第356条第1項の規定に違反して」とされているので、事前承認なき場合に限られている。
3. ややこしい。今ひとつよくわからないところもある。一応、条文の規定に仕方・構造の違いの指摘にとどまる。]
 
◇任務懈怠責任の性質
商法57/ 会社法57/ 224/ 任務懈怠責任は、役員等の会社に対する #債務不履行責任 の性質を有するが、連帯責任(会社法430条)とされるなど、法によって内容が加重された特殊な責任である。そのため、消滅時効期間が、商法522条の5年でなく民法167条1項の10年とされる。遅延損害利率も、民法所定の5分である。
[『LEGAL QUEST会社法』3版239頁(最判平20・1・28。最判平26・1・30),民法404条,参照]

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◇「報酬等」の範囲
[・退職慰労金は、取締役の在職中における職務執行の対価として支給される限り、「報酬」に含まれる(判例)。なぜなら、残存取締役にも将来、退職慰労金が支給される可能性があるから、お手盛りに準じた弊害のおそれがあるからである。
 使用人兼務取締役の使用人分給与については、使用人の給与体系が確立しており、使用人分は別に支払う旨を明示すれば、「報酬」には含まれない(判例)。なぜなら、使用人の給与体系が確立している場合には、使用人分について決議しなくても、お手盛りを防止できるからである。
 ストック・オプション(インセンティブ報酬としての新株予約券)も、「報酬等」に含まれる。なぜなら、将来利益を得る場合もある、という経済的実質からすれば、お手盛りのおそれがあるからである。なお、従来は新株予約権の有利発行とされてきたが、会計基準の改正により費用として計上されることになったため、有利発行にはあたらない。]

会社法116/ 673/ 退職慰労金は,#取締役の在職中の職務執行の対価として支給される限り,「報酬」に含まれる。使用人兼務取締役の使用人分給与は,#使用人の給与体系が確立しており_使用人分は別に支払う旨を明示すれば,含まれない。ストック・オプション(インセンティブ報酬としての新株予約券)も,「報酬等」に含まれる。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版278頁(最判昭39・12・11,最判昭60・3・26)参照]

◇報酬等の決定
商法58/ 会社法58/ 227/ 定款または株主総会決議(株主総会で総額を定め、取締役会で各取締役の配分を決議した場合含む)で取締役の報酬額が #具体的に定められた 場合、会社と取締役間の契約内容となり、当事者双方を拘束するから、その後株主総会で無報酬と決議しても、当該取締役の同意なき限り、報酬請求権は存続する。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕50頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照]

商法59/ 会社法59/ 228/ ①取締役の報酬が具体的に定められると、会社・取締役間の契約内容となり、両者を拘束する、②その後これを無報酬とする株主総会決議が行われても、当該取締役が同意しないかぎり報酬請求権は失われない、③取締役の #職務内容に著しい変更がある場合 も同様である。これは、報酬減額にも妥当する。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕54頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照]

商法61/ 会社法61/ 230/ 取締役報酬額が具体的に定まれば、会社との契約内容となり拘束力をもつので、同意なき限り、事後に無報酬とする株主総会決議で報酬請求権を奪えないが、取締役の任用契約(委任契約)は継続的であり、#契約拘束力だけ で事情変更を阻む理由乏しく、正当理由あれば、報酬を地位・責任に比例させうる。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕61~62頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照]

商法60/ 会社法60/ 229/ 取締役報酬は #ある程度身分保障 されているので(会社法361条、332条、339条参照)、職務内容の著しい変更のみを理由に減額できない。しかし、①役職に応じ減額しうる事前の同意(契約内容)や、②「正当な理由」(339条2項参照)がある場合には、総会決議により減額しうると解する。
[『事例で考える会社法』初版〔事例③〕56~58頁(最判平4・12・18民集46-9-3006)参照]

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◇役員等の会社に対する責任
会社法122/ 737/ 役員等の(会社法423条1項かっこ書)の行為によって会社に損害が生じた場合や会社から金銭が流出した場合,役員等は賠償等の責任を負う。その基本的なものが任務懈怠責任。要件(#任務懈怠_会社の損害_その間の因果関係)の証明責任は責任追及者側が負う。#帰責事由も消極的要件,債務不履行責任の性質あり。
[『LEGAL QUEST会社法』3版230頁参照]

◇会社に対する任務懈怠責任
商法129,130/ 805.806/ 会社法423条1項は,役員等が,任務を怠ったとき(任務懈怠),これによって(因果関係),会社に生じた損害を,会社に対し賠償責任を負う旨規定。#任務懈怠に際し_会社と利益相反する当該取締役との自己取引を除き_帰責事由すなわち故意過失またはそれと信義則上同視し得る事由の存在要する(428条1項反対解釈)。

/ 任務懈怠については,会社法423条3項に推定規定があり,取締役による自己/第三者のための会社との利益相反取引(356条1項2号)で損害が生じた場合,任務懈怠が推定される。
なお,非業務執行取締役(427条1項,2条15号イ)は,会社と責任限定契約締結可能だが,#自己取引による利益相反取引には非適用(428条2項)。
[会社法R30予備Q2,http://asanonaoki.com/blog/平成30(2018)年司法試験予備試験論文再-9/,参照]

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◇経営判断原則
[・当時の状況に照らして、経営判断の前提となった事実の認識(情報収集・調査・分析)に不注意な誤りがなかったかどうか、その事実にもとづく意思決定の過程・内容において通常の企業経営者として著しく不合理なところがなかったかどうかという観点から審査し、そのような誤りや不合理がなければ、当該経営判断は、取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反するものではない。]

会社法117/ 732/ 当時の状況に照らし,経営判断の前提である事実認識(情報収集・調査・分析)に不注意な誤りがなかったか,#その事実にもとづく意思決定過程・内容に通常の企業経営者として著しく不合理な点がなかったか審査し,そのような誤りや不合理なければ,当該経営判断は,取締役としての善管注意・忠実義務に反せず。
[『会社法判例百選』2版109頁左欄タテ2(東京地判平14・4・25判時1793-140等)参照]

〇取締役の注意義務と経営判断原則
会社法判例2/ 最判平22・7・15参照:経営判断原則はアメリカ判例法理。取締役の経営判断が会社に損害をもたらす結果が生じたとしても,誠実性・合理性をある程度確保する一定要件下に行われた場合,裁判所が判断の当否に事後的介入し注意義務違反を直ちに問うべきでない。本判決規範は簡潔,#事実認識の部分の言及なし。
[『会社法判例百選』2版〔52〕(判時2091-90,アパマンショップ事件),特に109頁左欄タテ3,参照]

〇取締役の会社に対する責任
会社法判例3/ 名古屋地判平29・2・10:複数事業部門中,ある事業部門で赤字が続いていたとしても,#当該事業から撤退しないことが直ちに取締役の善管注意義務違反になるものではなく,当該事業好転の可能性・会社における位置づけ,事業全体に占める割合,その他メリット・デメリット等を総合考慮し不合理な点の有無検討。
[『平成29年度重要判例解説』90頁(金判1525-50)参照]

会社法判例4/ 名古屋高判:平28・10・27:会社経理部の役員・従業員が適正な手続を経ずに取引先に対する不正な金融支援を行ったのは,代表取締役等の監視義務違反等によるものとして,#回収不能となった融資金相当額のみならず_特別調査委員会・責任追及委員会に対する報酬相当額も,当該役員等は,賠償義務を会社に負う。
[『平成29年度重要判例解説』90頁(金判1526-53)参照]

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◇法令に違反してはいなかったが業務執行が不適切だとされた場合の取締役の責任
[・株主が取締役の会社に対する責任を追及する場合、会社法423条が主な根拠になる。利益相反取引の場合も、その取引にもとづく取締役の責任の要件・効果は、423条に定められている。同条を経由せず、取締役の会社に対する何らかの責任が発生するのは、取締役が利益供与を行った場合(120条4項)や、461条に違反して剰余金の配当等が行われた場合(462条)などに限られる。
 423条1項によれば、①役員等が任務を怠ったこと(任務懈怠)、②会社に損害が生じたこと、③任務懈怠と損害との間に因果関係があること、が任務懈怠責任が発生する要件とされている。取締役の行った(法令違反ではない)経営上の決定が問題となる場合、任務懈怠(①)は、善管注意義務(330条・民法644条)・忠実義務(355条)違反とも言い換えられる。さらに、423条1項と428条をあわせて読めば、④役員等の責めに帰することができる事由(帰責事由)があることも、責任発生の要件といえる。帰責事由は、故意または過失と言い換えられる。
 役員等の任務懈怠責任(423条)は、債務不履行責任(民法415条)の特則であることから、役員等の責任を追求する側が、①役員等の任務懈怠、②会社の損害、③それらの間の因果関係について証明責任を負い、④役員等の側が帰責事由がないことの証明責任を負うと解される。もっとも、任務懈怠の証明は、実際上は、帰責事由の証明と重なり合うため、責任を追求する側が、役員等の任務懈怠(①)の証明に成功すれば、役員等の側が帰責事由(④)がないことの証明に成功する余地はほとんどない。]

会社法87/ 機関44/ 456/ ①役員等の任務懈怠,②会社に損害,③①②の間の因果関係(会社法423条1項),④役員等の帰責事由(428条,故意・過失)が任務懈怠責任要件。法令違反でない経営上の決定:①は善管注意義務(330条・民法644条),忠実義務(355条)違反。債務不履行責任の特則:#追求側①②③,#役員等④帰責事由なきことの証明責任。
[『事例で考える会社法』156頁,157頁参照]

◇ 経営判断原則
[・取締役が業務執行としてある行為を行ったことが、事後的に任務懈怠(善管注意義務違反)だったと評価されるのは、どのような場合か。取締役は、会社が利益を上げることや会社に損害が生じないことを請け負うものではなく、善良なる管理者の注意をもって、その職務を遂行する義務を負うだけである。この点に関し、判例は、裁判所は取締役の経営判断に事後的に介入しない、という考え方(経営判断原則)を採用している。
 経営判断の内容は、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況および会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、#当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見および経験を基準として、前提としての #事実の認識 に不注意な誤りがなかったか否かおよびその事実に基づく #行為の選択決定 に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが #著しく不合理と評価されるか否か によるべきである、とされる。ここでいう事実の認識に不注意な誤りがなかったか否かは、具体的には、経営判断に至るまでに、通常行われるべき情報収集・調査・検討がされていたか否か、という問いである。また、その事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かは、そのような情報収集にもとづいて、経営判断を行う際にどのような選択肢があるか、その中からどれを選択するかについて著しい不合理がなかったか、という問いである。
 この経営判断原則の基礎にある実質的な考慮は、企業経営にはリスクが伴うということである。むしろ、リスクのある事業を行うことこそが、株式会社という制度の役割であり、取締役が行った経営上の決定への事後的な介入が安易に行われれば、そのような株式会社の存在価値が損なわれる。裁判官や一般の株主は、経営上の決定に関して、経営者よりも優れた能力・情報を有するわけではない。このような理由から、株式会社では、出資者である株主ではなく取締役が業務の執行を担うことになっていたはずである、というものである。]
 
会社法74/ 機関39/ 420/ 当該行為時の会社の状況・社会,経済,文化等の情勢下,#会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見_経験を基準とし,前提としての #事実認識 における不注意な誤りの有無,その事実に基づく #行為の選択決定 における不合理の有無の観点から,当該行為が #著しく不合理と評価されるか(経営判断)。
[『事例で考える会社法』初版159頁(東京高判平16・9・28判時1886-111)参照(より簡潔な表現として,最判平22・7・15判時2091-90)]
 
商法16/ 会社法16/ 86/ リスクの伴う企業経営を、結果的に萎縮させないため、行為時の状況に照らし①情報収集・調査・検討に不注意な誤りがなかったか、②意思決定過程・内容に通常の企業経営者として著しく不合理な点ながなかったかという点から、経営判断について任務懈怠責任(#会社法423条1項)を判断すべきである。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック2民事系』6版289頁参照]
 
商法48/ 会社法48/ 205/ 企業経営にリスクは伴う。リスクある事業を行うことが株式会社の役割であり、資本主義経済の発展を促す。しかし、裁判官は経営についての知識・経験を有するわけではなく、後知恵で取締役の #経営判断 への事後的な介入を安易に認めるならば、株式会社の存在意義、所有と経営の分離も無意味になる。
[『LEGAL QUEST会社法』3版233頁参照]
 
商法49/ 会社法49/ 206/ 上場会社では、取締役・執行役が個々の従業員の行為を監視することは現実的でなく、取締役会は、会社の業務の法令遵守体制、その他のリスク管理体制を含め、#内部統制システム 構築義務を負う。そのような義務違反があれば、任務懈怠が認定される。もっとも、ある程度の裁量は認められるべきである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版235頁参照。会社法355条・419条2項]

〔具体的な法令に違反する業務執行を行った場合の取締役の責任〕
◇「法令」(会社法355条,419条2項)の意義
商法56/ 会社法56/ 223/ 会社が遵守すべきあらゆる法令につき、その違反は、取締役の任務懈怠となる。取締役が業務執行を決定・執行する以上、職務遂行に際し会社を名あて人とする #すべての法令 の遵守も職務上の義務であり、株主の合理的意思にかんがみ、会社・株主保護目的の法令に限らず遵守し経営すべきだからである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版237頁参照]

商法30/ 会社法30/ 182/ 「法令・定款に違反する行為」(#会社法360条1項)は、個別の法令(すべての法令含む)・定款に違反する行為のほか、取締役・執行役の注意義務違反(330条・402条3項・民法644条、会社法355条)にあたる行為も含む。裁判外での差止請求、仮処分申立て(民保法23条1項)もできる。
[『LEGAL QUEST会社法』3版249頁,R21②設問4,参照]

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〇取締役の責任と法令違反
会社法判例1/ 最判平12・7・7:「法令」(会社法423条1項)には,①330条(民法644条)・355条の規定(一般規定,取締役の受任者としての職務),②#これを具体化する形で取締役が業務執行に際し遵守すべき義務を定める個別規定,③商法その他の法令中,会社を名あて人とし,#会社が業務執行に際し遵守すべきすべての規定も含む。
[『会社法判例百選』2版〔51〕(民集54-6-1767)参照。
 同書107頁右欄タテ4の,『取締役の受任者としての職務』と,『その業務執行の際に尽くすべき注意義務の程度を示す「善良な管理者の注意」』の違い,よくわからなかったが,その言い回しを使って,判例を言い換えてメモしています。
 おそらく,①における「善良な管理者の注意」(民法644条)は,取締役の受任者としての一般的な注意義務,②・③においては,名あて人が違うが,どちらにも「善良な管理者の注意」が問題となるということを言われているのであろう。
 そして,民法における「善良な管理者の注意」についての注意義務違反の概念の理解によって,会社法における「職務」の範囲や「法令」の意義が影響しないと言われているのであろう。]

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◇任務懈怠責任の免除
会社法119,120/ 734,735/ 役員等の任務懈怠責任は,議決権なき株主も含む,#総株主の同意なければ,免除不可(会社法424条)。そうでなければ,単独で株主代表訴訟提起できることが無意味になるから。もっとも,#職務を行うにつき善意・無重過失なときに限り_より緩やかな要件で一部免除可(ただし,自己のために直接取引した場合除く)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版239頁-240頁(会社法424条~428条)参照]

/ 一部免除の方法は3種:①#株主総会の特別決議(会社法309条2項8号)で,賠償額から最低責任限度額を控除した額を限度に免除可(425条)。②対象とされる取締役を除く,#取締役の過半数の同意での免除を定款に規定可(426条)。③#非業務執行取締役は_会社と責任限定契約を締結できることを定款に規定可(427条)。
[『LEGAL QUEST会社法』3版240頁-241頁参照]

◇役員等のその他の責任事由
会社法121/ 736/ 任務懈怠責任(会社法423条1項)以外の役員等の会社に対する責任:①#120条1項に反し利益供与した場合,関与した取締役・執行役は,会社に対し,連帯して,供与された利益の価額に相当する額の支払義務あり(4項)。②#現物出資_仮装の払込み_剰余金の配当_自己株式の取得等の関連責任。③発起人,清算人の責任。
[『LEGAL QUEST会社法』3版241頁-242頁参照]

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○濫用的代表訴訟の阻止
会社法判例10/ 東京高決平7・2・20参照:株主や第三者の不正な利益を図り・会社に損害を加える目的の代表訴訟は,提起不可。また,被告となった役員等が,訴え提起が悪意によることを疎明すれば,相当の担保提供が原告株主に命じられ得る。悪意には,#代表訴訟請求に理由なきことを_過失によって知らなかった場合を含まず。
[『LEGAL QUEST会社法』3版246頁(判タ895-252,会社法847条1項ただし書・5項ただし書,847条の4第2項3項)参照。「原告が過失によって自己の請求に理由がないことを知らずに訴えを提起したことが疎明された場合にまで,担保提供を命ずることができると解することは,『悪意』という文言にそわないものであって,相当ではない」(『会社法判例百選』2版〔69〕参照)]

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◇役員等の第三者に対する責任
商法69/ 会社法69/ 273/ 会社法429条1項の責任につき、①役員等の任務懈怠と第三者の損害の間に相当因果関係ある限り、#会社が損害を被りひいては第三者に生じた間接損害か、#第三者の直接損害かを問わず、役員等は責任を負う。②#役員等への不法行為責任追及も可能。③#任務懈怠についての悪意・重過失立証で足りる。
[『LEGAL QUEST会社法』3版250頁(最大判昭44・11・26民集23-11-2150)参照]

会社法53/ 215/ 会社債権者も「第三者」(#会社法429条1項)に含まれる。第三者は、任務懈怠の当事者以外のすべての者をいうからである。
株主は、直接損害の場合、含まれるが、会社をはさんだ間接損害の場合、含まれないと解する。後者では、423条等で損害回復できるのであり、二重取りさせないためである。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系310頁, R27予備,参照]

商法70/ 会社法70/ 274/ 間接損害につき原則、株主は「第三者」(会社法429条1項)に含まれない。役員等の行為により会社財産が減少し株価が下落しても、株主は429条でなく、#代表訴訟を提起し423条等の責任追及すべきである。役員等に二重に責任追及すべきでも、会社の賠償請求権を奪うべきでも、ないからである。
[『LEGAL QUEST会社法』3版251頁参照。間接損害事例で「第三者」に株主が含まれない理由。]

会社法52/ 214/ 名目的取締役も、適法な選任決議を経ている以上「#役員等」(会社法429条1項)にあたる。
選任決議を欠く登記簿上の取締役も、役員等にあたりうる。故意・過失で登記に承諾を与えていれば、908条2項の類推により、善意の第三者に対抗できない結果、429条の責任を免れられないからである。
[辰巳『趣旨・規範ハンドブック』6版民事系307頁参照。ただし,名目的取締役については,「役員等」にあたっても,具体的事情によっては,因果関係を欠く場合も考えられる。]

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