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原稿 · @right_droit4

29th Mar 2019 from TwitLonger

刑法短文⑮-1/ 財産犯その1 (19ヶ)


略号: ☆問題,〇判例,◇その他。R論文,Q設問,T短答。⇒ならば,∴なので(したがって,よって,ゆえに),∵なぜならば,⇔これに対し(て),orまたは,butしかし(もっとも),exたとえば。TB構成要件,Rw違法性(違法),S責任(有責性)
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◇「財物」
刑法判例12/ 「財物」とは,#財産的価値ある有体物をいうと解する。財産的価値には,金銭的・経済的価値のみならず,所有者・管理者の主観的価値(#客観的交換価値なくとも主観的使用価値で足る),財物が悪用されないように手元に置く利益(消極的価値)あるものを含む。価値が僅少であるとして財物性を否定した判例あり。
[山口『刑法総論』3版175頁,172頁-174頁(大判明36・5・21刑録9-874,東京高判昭28・9・18判特39-108,東京地判昭39・7・31下刑集6-7=8-891等)参照。古い判例は,管理可能性説だが,裁判例においては,情報それ自体を財物としていないように,有体性説がとられているようである。]

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〇刑法上の占有
刑法判例13/ 刑法上の占有:財物に対する事実上の支配。その存否は,占有の事実(客観的要件)と占有の意思(主観的要件)を総合し,社会通念に従い判断。#主観的要件は客観的要件を補完。①財物握持,②人の閉鎖的支配内,③一時置き忘れ:場所的・時間的離隔,僅か,④一定の保管場所に保管する意思,⑤当該領域支配者に移転。
[山口『刑法総論』3版177頁,178頁-180頁(最判昭32・11・8刑集11-12-3061など)参照。R27①,T25(4オ)]

☆窃盗罪における占有の意義――死者の占有/ 不法領得の意思と故意との関係
刑法問題4/ 刑法R29①参照:先行する自分たちの行為(正当防衛/過剰防衛)により死に至らしめたと誤信した被害者Aの,財布取得。
Aは生きているので,客観的には窃盗罪の構成要件該当。死者の占有(窃盗or占有離脱物横領,抽象的事実の錯誤)?
不法領得意思:利用意思?/器物損壊罪
異なる構成要件間における共同正犯の成否?
[平成29年度司法試験問題論文式試験問題,採点実感,参照。
 私は,故意は,犯罪事実(違法性を基礎づける事実)の認識だろうと思うので,その認識対象は,構成要件該当事実および違法性阻却事由の不存在自由の両方だと思っています。
 そうすると,主観的違法要素たる不法領得の意思を,自らが保持していることも、理論的本来的には,故意の認識対象だろうと思います。
 しかし,答案政策上は,故意を不法領得の意思より先に検討する方がシンプルに書ける場合があるということだろう。(学問としての厳密な考察によるものではなく,現時点てそう思うだけだが,)要件事実論におけるせり上がりと同じようなものと理解できないであろうか? ]

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◇不法領得の意思
[・不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用、処分する意思(排除意思および利用意思)である。単に一時使用のために財物を自己の所持に移すことは窃盗罪を構成しない。排除意思が認められないからである。利用意思により、毀棄罪と窃盗罪とが区別される。]

◇排除意思の意義
[・排除意思は、軽微な占有・所有権侵害を処罰範囲から排除しようとする可罰的違法性の考え方に基づく。すなわち、可罰的な程度に利用を妨害する意思、あるいは、可罰的な法益侵害(利用妨害)を惹起しようとする意思であり、主観的違法要素である。]

刑法58/ 519/ 不法領得の意思は,#権利者を排除して他人の物を自己の所有物として(その経済的用法に従い)#利用_処分する意思(排除意思・利用意思)。一時使用のための財物の占有取得は,排除意思なし。利用意思により,毀棄罪と区別。排除意思は,#可罰的な法益侵害(利用妨害)を惹起しようとする意思で,#主観的違法要素。
[山口『刑法各論』2版197頁-200頁(大判大4・5・21刑集21-663(教育勅語事件),最判昭26・7・13刑集5-8-1437)参照]

◇判例における利用意思
[・判例における利用意思は、当初、経済的用法に従い使用・処分する意思と解されたが、経済的用法とはいいがたい場合において、本来の用法に従い使用・処分する意思でもよいとされ、財物から生ずる何らかの効用を享受する意思でもよいとして次第に拡張されている。しかし、最初から被害品を携えて直ちに自首するつもりで財物を奪取した場合や、毀棄・隠匿の意思の場合には否定される。]

刑法60/ 521/ 判例における利用意思は,当初,経済的用法に従い使用・処分する意思と解されたが,経済的用法とはいいがたい場合,本来の用法に従い使用・処分する意思,#財物から生ずる何らかの効用を享受する意思でもよいと拡張。しかし,最初から被害品を携えて直ちに自首するつもりや,毀棄・隠匿の意思の場合には否定。
[山口『刑法各論』2版202頁(大判大4・5・21刑集21-663(教育勅語事件),最判昭33・4・17刑集12-6-1079,最決昭35・9・9刑集14-11-1457,東京地判昭62・10・6判時1259-137)参照。判例・裁判例]

◇利用意思の意義
[・利用意思とは、財物から生ずる何らかの効用を享受する意思である。このような意思により占有奪取行為が行われる場合には、法益侵害行為が強力な動機に基づき行われるために、責任が重いと解される。そのため、窃盗罪の法定刑は毀棄罪の法的刑よりもかなり重いのである。こうして、利用意思は、財物奪取行為についての責任を加重する責任要素と解される。
 窃盗罪と同じ領得罪である遺失物横領罪の法定刑が毀棄罪のそれよりも軽いのは、遺失物横領罪においては、占有侵害が存在しないため違法性が軽くなり、また、遺失物横領罪は誘惑的であるため犯しやすい犯罪であるところから責任が軽くなっているからといえる。]

刑法59/ 520/ 利用意思は,#財物から生ずる何らかの効用を享受する意思。強力な動機に基づき行われるため,責任が重く,窃盗罪の法定刑は毀棄罪のそれよりもかなり重い。#財物奪取行為について責任を加重する責任要素。遺失物横領罪の法定刑が軽いのは,#占有侵害ない点_違法性軽く_誘惑的で犯しやすい点_責任軽いため。
[山口『刑法各論』2版202頁-203頁参照。窃盗罪,毀棄罪,占有物離脱罪の罪質の比較]

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〇窃盗罪の故意と死者の占有(団藤説)
刑法判例6/ 最判昭41・4・8参照:Xは,当初財物領得の意思はなかったが,#野外で_人を殺害後_領得意思を生じ_犯行直後_現場で_被害者が身に着けていた時計を奪取したのであり,このような場合,被害者の生前の財物所持は死亡直後もなお継続保護すべき。#Xの一連の行為は_全体的に考察し_他人の財物に対する所持の侵害。
[平成29年度司法試験の採点実感(刑事系科目第1問,R29①)6頁(刑集20-4-207)参照。窃盗罪の故意と死者の占有]

◇死者の占有
刑法104/ 840/ #被害者が生前有していた財物の所持は_その死亡直後もなお継続保護するのが法の目的にかなうので,被害者から財物の占有を離脱させた自己の行為を利用し財物奪取した一連の行為は,全体的に考察し,他人の財物に対する所持を侵害したものというべきで,この奪取行為は,占有離脱物横領でなく,窃盗罪を構成。
[最判昭41・4・8刑集20-4-207(平成29年採点実感(刑事系第1問)6頁)参照。R29①]

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◇不動産侵奪罪における「侵奪」
刑法判例15/ 「侵奪」(刑法235条の2)とは,不動産に対する他人の占有を排除し自己or第三者の占有を設定すること。#不動産に対する事実的な支配の侵害をいい,不動産登記の改ざんや登記名義の不正取得は含まない。他人の土地に無断で建物を建てた場合が典型。土地利用権限を超え,容易に原状回復不能にする使用も含む。
[山口『刑法総論』3版206頁-207頁(最決平11・12・9刑集53-9-1117)参照]

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◇反抗を抑圧するに足る程度のものかという客観的基準
刑法1/ 60/ 強盗罪(#刑法236条)の手段たる「暴行」「脅迫」にあたるか否かは、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものかという客観的基準により決定される。その際、暴行・脅迫の態様、犯人の性別・年齢・体格、人数、意図、被害者の性別・年齢、人数、犯行の時刻・場所などが考慮される。
[『趣旨・規範ハンドブック』5版3刑事系116頁,最判昭24・2・8刑集3-2-75,R28①,参照]

◇反抗を抑圧するに足る程度のものかどうか
刑法109/ 845/ 強盗罪の手段としての暴行・脅迫は,#被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものでなければならない。それは,#社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものかという客観的基準による。具体的事案の被害者の主観が基準ではない。その際,#被害者側の事情_行為の状況_行為者側の事情を総合判断。
[山口『刑法各論』2版217頁(最判昭24・2・8刑集3-2-75,東京高判昭29・10・7東高刑時報5-9-380,東京高判昭37・10・31東高刑時報13-10-267)参照]

◇被害者が現実には反抗を抑圧されなかったとき
刑法110/ 846/ #客観的に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫が行われたが_現実に抑圧されなかった場合,判例は強盗既遂とする。しかし,強盗罪は,暴行・脅迫により被害者の反抗が抑圧されて,財物が奪取されるという因果経過必要。∵交付罪たる恐喝罪との区別。この場合,#強盗未遂と恐喝既遂の観念的競合。
[山口『刑法各論』2版217頁(最判昭24・2・8刑集3-2-75/ 大阪地判平4・9・22判タ828-281,現在の実務は実際にはこの考えに従っていると解されるとのこと。)参照]

◇反抗抑圧するに足りない程度の暴行・脅迫だったが,被害者が特別憶病などの事情で実際に反抗を抑圧された場合
刑法113/ 849/ 反抗抑圧に足りない程度の暴行・脅迫を用いたところ,被害者が特別憶病などの事情で実際に反抗を抑圧された場合? 暴行・脅迫は反抗抑圧手段としての要件なので,実際に反抗抑圧効果生じた場合,強盗罪成立可。#被害者特性を考慮した判断が客観的判断にかなう。事情不知の場合,強盗の故意なく,恐喝の故意。
[山口『刑法各論』2版218頁参照]

◇ひったくり事案
刑法111/ 847/ 暴行がもっぱら財物を直接奪取する手段として用いられた場合,#反抗抑圧に向けられてないので,強盗罪不成立。⇒ひったくりは,通常,窃盗罪。もっとも,ひったくろうとしたハンドバックの紐をつかんだまま離さない女性被害者を自動車で引きずり転倒させたりした場合,反抗抑圧手段としての暴行,強盗罪成立。
[山口『刑法各論』2版218頁-219頁(最決昭45・12・22刑集24-13-1882/ 札幌地判平4・10・30判タ817-215(恐喝未遂罪としたもの))参照]

◇暴行・脅迫後の領得意思(新たな暴行・脅迫必要説)
刑法114/ 850/ 強盗以外目的で暴行・脅迫を用い相手方の反抗を抑圧した後,財物奪取意思を生じ,反抗抑圧状態を利用し財物奪取した場合? #強盗罪成立には財物奪取に向けた暴行・脅迫が必要だから_新たな暴行・脅迫を要すると解する。また,∵抗拒不能に乗じた性交等を罰する刑法178条2項のような規定が,強盗罪に不存在。
[山口『刑法各論』2版221頁参照]

◇新たな暴行・脅迫の程度・内容
刑法115/ 851/ 新たな暴行・脅迫は,#相手方の反抗を抑圧した者が_すでに反抗を抑圧されている者に対し行う暴行・脅迫なので_通常の場合に比し程度の低いもので足り_反抗抑圧状態を維持・継続させるもので足りる。しかし,暴行・脅迫による犯行抑圧状態惹起を要し,#単なる反抗抑圧状態不解消という不作為では足りない。
[同書222頁(東京高判昭48・3・26高刑集26-1-85)参照]

◇財産的利益移転の具体性・確実性
刑法12/ 139/ 強盗利得罪(#刑法236条2項)では、相手方は反抗を抑圧されており、任意に基づく処分行為介入の余地がないので、債務免除、支払猶予といった処分行為を要しない。ただ、処罰範囲限定のため、財物移転と同視できる、事実上支払いを免れたなどの、財産的利益移転の具体性・確実性を要すると解する。
[西田典之『刑法各論』5版171頁、最判昭32・9・13刑集11-9-2263、参照。判例+西田説]

◇事後強盗罪の構造,および,暴行・脅迫にのみ関与した者の罪責
刑法112/ 848/ #事後強盗罪は_窃盗罪と暴行・脅迫罪の結合犯と解する。窃盗,暴行・脅迫が法益侵害の内容をなし,暴行・脅迫は実際に行われること要。#財物に対する罪なので,窃盗の既遂・未遂により,同罪の既遂・未遂が決まる。#暴行・脅迫にのみ関与した後行者は_承継的共犯の成否にかかり_暴行・脅迫罪の共犯となる。
[山口『刑法各論』2版233頁参照。山口教授は,後行者の加功前の事実につき承継的共犯を否定され,中間説的な考え(加功後の事実につき共犯関係を認める)を採られるので,事後強盗の途中から暴行・脅迫にのみ関与した後行者は,加功前の窃盗につき共犯責任を負わない,という理屈のようである。]

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◇強盗・強制性交等致死罪に殺意のある場合を含むか
[・強盗・強制性交等致死罪(刑241条3項,旧同条後段)を結果的加重犯とする理解から、死の結果について故意ある場合を含まないと解するのが判例である。
 この場合、①強盗・強制性交等致死罪と殺人罪の観念的競合、②強盗・強制性交等罪(刑241条1項)と殺人罪の観念競合、③強盗殺人罪と強盗・強制性交等罪との観念的競合(判例)などの考えがありうる。しかし、①は、死の結果の二重評価に疑問、②は、殺意のない強盗致死罪より刑が軽いのが疑問、③は、強盗の二重評価、および、前提とする機会説(判例)に疑問。
 そこで、刑の均衡、および、強盗致死傷罪についての拡張された手段説の観点から、強盗・強制性交等致死罪には殺意ある場合を含むと解すべきである。]

刑法162/ 950/ 判例は,強盗・強制性交等致死罪(刑241条3項)を結果的加重犯とする理解から,殺意ある場合を含まず,#殺意ある場合_強盗殺人罪と強盗・強制性交等罪(1項)との観念的競合とする。but,強盗の二重評価,前提とする機会説,疑問。刑の均衡,強盗致死傷罪の拡張された手段説をとり,殺意ある場合を含むと解すべき。
[(山口『刑法各論』2版242頁-243頁(大判昭10・5・13刑集14-514,大阪高判昭42・5・29高刑集20-3-330)参照。強盗致死傷罪(刑240条)の成立に関わる強盗の機会の議論における,拡張された手段説(山口説)とは,強盗罪の手段たる暴行・脅迫と,事後強盗類似の状況における暴行・脅迫から死傷結果が生じた場合に,同罪の成立を認める見解(同書236頁参照)。]

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